
春闘とは何か
春闘とは、4月の新年度に向けて労働組合と企業が労働条件を交渉する一斉交渉のことです。ベースアップや定期昇給、賞与、労働時間などが議題になりますが、毎年もっとも注目されるのは賃上げ率です。2026年春闘では、連合が5%以上(中小企業は6%以上)を掲げ、民間主要企業ベースでは5%台半ばという予測も出ています。数字だけ見れば「歴史的水準」と言ってよいでしょう。物価上昇が続くなか、賃上げ機運が維持されていること自体は前向きな材料です。しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。5%の賃上げは、果たしてそのまま生活の改善につながるのでしょうか。
賃上げと同時に上がる社会保険料という現実
賃金が上がると、同時に社会保険料と税負担も上がります。日本の社会保険料は標準報酬月額に連動しており、一定の水準を超えれば等級が上がります。すると、健康保険料や厚生年金保険料の負担が恒常的に増えることになります。たとえば年収500万円の人が5%賃上げされ、525万円になった場合、額面では25万円増えます。しかし、その分だけ本人負担の社会保険料が増え、さらに所得税・住民税も増えます。結果として、手取り増加額は想像より小さくなります。加えて、会社側も同額程度の社会保険料を負担しているため、企業の人件費増は賃上げ額以上になります。この構造のままでは、「賃上げが豊かになる」という単純な図式は成り立ちません。数字は上がっても、実感が伴わない理由はここにあります。
本当に必要なのは「手取り」を増やす発想
春闘で賃上げ率が何%になったかという議論は、もはや出発点に過ぎません。重要なのは、社員の可処分所得がどれだけ増えるかです。物価上昇が続く中で生活を安定させるためには、額面の増加ではなく実質的な手取りの改善が不可欠です。そのためには、社会保険料負担のあり方を含めた制度設計の議論が避けて通れません。賃上げを促す一方で、保険料率が高止まりし、負担構造が固定化されている現状では、企業も労働者も持続的な賃上げに踏み切りにくくなります。特に中小企業にとっては、賃上げと同時に発生する法定福利費の増加が重い負担となります。本来、賃上げは経済の好循環を生むための手段であり、目的ではありません。賃金を上げても社会保険料や税負担の増加で相殺されるなら、政策としての効果は限定的です。春闘が高水準で推移する今こそ、「いくら上げるか」ではなく「どれだけ手取りを増やせるか」という視点で制度全体を見直す必要があります。5%という数字に安心するのではなく、その先の構造に目を向けることが、これからの賃金政策に求められているのではないでしょうか。



