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「大企業ほど男女の賃金差が大きい」という報道の違和感

男女の賃金格差 大企業が顕著 – Yahoo!ニュース

3月8日、「大企業ほど男女の賃金差が大きい」という報道がありました。厚生労働省の賃金構造基本統計調査を基にした分析で、大企業では男性の月額賃金が約40万円、女性が約30万円とされ、女性賃金は男性の73.5%という結果です。一方、小企業では女性賃金は男性の78.7%であり、確かに数字だけ見れば大企業のほうが格差が大きく見えます。ただし、この見出しをそのまま読むと、「大企業では同じ社員なのに男女で賃金差をつけている」という印象を与えかねません。しかし、今回比較されているのは全年代の平均値です。そこには新入社員から役員手前の管理職まで、あらゆる年齢・役職が混ざっています。つまり、同じ条件の社員を比較しているわけではありません。実際に賃金構造基本統計調査を見ると、入社直後の男女賃金差はそれほど大きくありません。差が大きくなるのは30代後半以降、つまり昇進や勤続年数が賃金に影響し始める段階です。ここを説明しないまま「大企業は男女格差が大きい」と言ってしまうと、統計の読み方としてはかなり雑のようにかんじます。もちろん、だから問題がないと言いたいわけではありません。むしろ重要なのはその差がどこで生まれているのかではないでしょうか。


男女賃金差の正体は「キャリア構造の差」である

男女賃金差を議論するとき、多くの人が「同一労働同一賃金」を想像します。「同じ仕事をしているのに女性の賃金が低いのではないか」という発想となります。しかし、実際の統計が示しているのはそれとは少し違う構造です。OECDなど国際的な男女賃金格差の指標は、職種や役職を調整しない調整前格差で計算されます。つまり、誰がどれだけ長く働き、どれだけ昇進しているかまで含めた結果としての差を示しています。日本の場合、この差を生む最大の要因は三つあります。勤続年数、役職、そして雇用形態です。女性は男性より勤続年数が短くなりやすく、管理職比率も低く、非正規雇用の割合も高い。この三つが組み合わさることで、平均賃金の差が拡大します。特に大きいのがキャリアの分岐点です。日本では30代前後、出産や育児のタイミングで働き方が変わるケースが多くあります。時短勤務、配置転換、非正規転換、あるいは離職です。その結果、男性の賃金カーブが右肩上がりで伸びるのに対し、女性の賃金カーブは途中で緩やかになります。この構造がある限り男女賃金差は自然に発生すると考えます。つまり、今回の報道が示しているのは「大企業が差別している」という単純な問題ではなく、日本の雇用システムが持つ構造的な問題となります。


本当に問われているのは「働き方の設計」である

日本の「女性活躍」の議論には、ひとつ大きな誤解があります。それは「男性の働き方を基準にして、そこに女性を当てはめようとしている点」になります。日本企業の昇進モデルは、長時間労働、転勤、突発対応などを前提にした働き方の上に成り立っています。このモデルの中では、育児や介護などケア責任を担う人ほど昇進ルートから外れやすくなります。そして現実的にその役割を女性が担うことが多くなり、その結果として男女賃金差が生まれます。つまり、本当に問われているのは「女性をどう活躍させるか」という話ではないと考えます。性別に関係なく、仕事とプライベートを両立できる働き方を設計できるかという問題です。しかも、この議論は理念の問題ではなくなりました。現在、男女賃金差は人的資本情報として企業の開示項目になっています。301人以上企業ではすでに公表が義務化されており、今後は101人以上企業へ拡大されます。男女賃金差は、CSRの話ではなく、企業評価の指標です。だからこそ企業が見るべきなのは平均値ではありません。「どの年代で差が広がっているのか」「育休復帰後に昇進速度が落ちていないか」「管理職候補の母集団が偏っていないか」などを分解して初めて、男女賃金差は説明できる数字から改善できる数字になると考えます。今回の報道は、「大企業が悪い」という話ではありません。むしろ、日本の働き方そのものが転換期に来ていることを示しているように感じます。男女賃金差の議論の本質は、男女平等のスローガンではなく、これからの労働社会をどう設計するかという問題だと思います。

仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ

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