
労働保険に加入している事業主は、毎年1回、「年度更新」という手続きを行う必要があります。年度更新とは、前年度に概算で納付していた労働保険料を、実際に支払った賃金額に基づいて精算し、あわせて今年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。この手続きで使用する書類が、一般的に「労働保険年度更新申告書」と呼ばれるものです。労働保険料は、労災保険料と雇用保険料をあわせたものです。申告書を提出するだけでなく、保険料の納付まで行って、はじめて年度更新の手続きが完了します。
労働保険年度更新申告書はなぜ必要なのか
労働保険料は、従業員に支払った賃金総額をもとに計算します。ただし、年度の初めの時点では、その年に実際いくら賃金を支払うかは分かりません。そのため、まずは見込み額で概算保険料を納付し、翌年度に実際の賃金額が確定した段階で精算する仕組みになっています。つまり年度更新では、次の2つを同時に行います。前年度の実際の賃金額に基づいて、正しい保険料を計算する。今年度の見込み賃金額に基づいて、概算保険料を申告・納付する。このように、年度更新申告書は、労働保険料を正しく精算し、納付するために必要な重要書類です。
提出しないとどうなるか
年度更新申告書を提出せず、労働保険料を納付しない場合、延滞金や追徴金が発生することがあります。また、労働保険料に未納があると、雇用関係の助成金を受けられなくなる可能性があります。助成金の多くは雇用保険料を財源としているため、保険料の納付状況は重要です。建設業の場合は、さらに注意が必要です。労働保険料の納付証明が取れないと、経営事項審査や公共工事の入札に影響することがあります。年度更新は、単なる事務作業ではなく、会社の信用や事業運営にも関わる重要な手続きになります。
申告・納付までの流れ
年度更新は、次の順番で進めると分かりやすくなります。
1. 労働局から届いた書類を確認する
まず、労働局から届く年度更新の封筒を確認します。中には、申告書、申告書の書き方、保険料率表、賃金集計表、納付書などが入っています。最初に、会社名、所在地、労働保険番号、事業の種類、保険料率に誤りがないかを確認します。ここに誤りがあると、保険料の計算も間違ってしまうため、最初に必ず確認しておきましょう。
2. 前年度の賃金を集計する
次に、前年度1年間に支払った賃金を集計します。対象となる期間は、原則として4月1日から翌年3月31日までです。集計する資料としては、賃金台帳、給与一覧表、賞与支給一覧、入退社一覧、雇用保険加入者一覧などを用意します。ここで注意したいのは、給与の総支給額をそのまま合計すればよいわけではないという点です。労働保険料の対象になる賃金と、対象にならないものを分けて確認する必要があります。
3. 労災保険と雇用保険の対象者を分ける
労災保険と雇用保険では、対象となる人が異なる場合があります。労災保険は、原則として労働者であれば対象になります。正社員だけでなく、パート、アルバイト、日雇い労働者も対象です。一方、雇用保険は、加入要件を満たす人が対象です。たとえば、週所定労働時間が20時間未満の短時間アルバイトは、労災保険の対象にはなっても、雇用保険の対象にはならない場合があります。そのため、賃金を集計するときは、労災保険の対象賃金と雇用保険の対象賃金を分けて確認することが大切です。
4. 対象賃金を確認する
労働保険料の対象になる主な賃金には、基本給、時間外手当、休日手当、深夜手当、通勤手当、賞与、各種手当などがあります。特に注意が必要なのは、通勤手当です。所得税では非課税となる通勤手当であっても、労働保険料の計算では原則として賃金に含めます。一方で、退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、出張旅費、宿泊費、解雇予告手当などは、原則として労働保険料の対象賃金には含めません。「給与計算上の課税・非課税」と「労働保険料の対象・対象外」は必ずしも同じではないため、ここは慎重に確認しましょう。
5. 前年度の確定保険料を計算する
賃金の集計が終わったら、前年度の確定保険料を計算します。労災保険料は、労災保険の対象賃金に労災保険率をかけて計算します。雇用保険料は、雇用保険の対象賃金に雇用保険料率をかけて計算します。ここで使用するのは、前年度の保険料率です。今年度の概算保険料を計算するときの料率と混同しないように注意が必要です。
6. 今年度の概算保険料を計算する
次に、今年度の概算保険料を計算します。概算保険料は、今年度に支払う見込みの賃金額をもとに計算します。通常、今年度の見込み賃金額が前年度の確定賃金額の2分の1以上2倍以下であれば、前年度の確定賃金額をそのまま使って計算します。ただし、従業員が大きく増える予定がある、退職者が多い、賃上げを予定している、賞与額が大きく変わるなどの場合は、実態に合わせた見込み額で計算する必要があります。
7. 不足・充当・還付を確認する
前年度の確定保険料を計算したら、前年度にすでに納付していた概算保険料と比較します。確定保険料の方が多い場合は、不足額を今年度の概算保険料とあわせて納付します。反対に、確定保険料の方が少ない場合は、納め過ぎた金額を今年度の概算保険料に充当できます。さらに、充当しても余る場合は還付の対象になります。ただし、還付を受ける場合は、申告書に還付額を記入するだけでは足りず、別途、還付請求書の提出が必要です。
8. 申告書を作成し、提出する
計算が終わったら、申告書に金額を記入します。主に記入するのは、常時使用労働者数、雇用保険被保険者数、確定保険料、概算保険料、一般拠出金、不足額、充当額、還付額、納付額などです。申告書は、労働局、労働基準監督署、金融機関、または電子申請で提出できます。郵送で提出する場合は、事業主控えを返送してもらうため、返信用封筒を同封しておくと安心です。
9. 労働保険料を納付する
年度更新は、申告書を提出しただけでは完了しません。申告した労働保険料を納付して、はじめて手続きが完了します。納付方法には、現金納付、口座振替、電子納付などがあります。また、概算保険料が一定額以上の場合は、3回に分けて納付する延納も可能です。
作成時に注意したいポイント
年度更新で特に注意したいのは、対象賃金の集計です。正社員だけでなく、パートやアルバイト、日雇い労働者に支払った賃金も、労災保険料の対象になる場合があります。また、通勤手当や賞与の集計漏れもよくあるミスです。特に通勤手当は、非課税分であっても労働保険料の対象になります。出向者がいる場合も注意が必要です。労災保険と雇用保険で取り扱いが異なることがあるため、出向元・出向先のどちらで集計するのかを確認しておきましょう。さらに、申告書の控えや納付控え、賃金集計表は必ず保管しておきます。建設業では、元請けや発注者から労働保険料の申告・納付状況の確認を求められることがあります。
まとめ
労働保険年度更新申告書は、前年度の労働保険料を精算し、今年度の概算保険料を申告・納付するための重要な書類です。手続きは、労働局から届いた書類を確認し、前年度の賃金を集計するところから始まります。その後、労災保険と雇用保険の対象者を分け、対象賃金を確認し、確定保険料と概算保険料を計算します。最後に、申告書を作成・提出し、労働保険料を納付して完了です。年度更新は毎年行う手続きですが、年に一度のため、対象賃金や記入方法で迷いやすい業務でもあります。期限内に正しく申告・納付できるよう、賃金台帳、賞与、雇用保険加入者、出向者の有無などを早めに確認しておきましょう。労働保険の年度更新は、会社が労働保険制度を適正に運用していることを示す重要な手続きです。申告漏れや納付漏れがないよう、早めに準備を進めることが大切です。
年度更新の申告内容に不安がある場合や、手続きの進め方でお困りの場合は、仙台・東京港区の社会保険労務士法人ブレインズまでお気軽にご相談ください。





