
大手企業の2026年夏のボーナスが、平均100万8,706円となり、初めて100万円を超えたと報道されました。経団連の一次集計によるもので、大企業112社の平均額は前年比1.88%増、5年連続のプラス。製造業は106万434円、非製造業は86万4,712円とされています。賃上げや賞与増額のニュースとしては前向きな内容でしょう。しかし、この数字は日本企業全体の夏ボーナス平均ではなく、経団連の同種の賞与集計であり、原則として従業員500人以上の大手企業を対象に行われています。2025年夏季賞与の経団連集計でも、対象は「22業種244社の大手企業(原則従業員500人以上)」で、集計可能だった107社、約70.3万人の平均妥結額が示されています。今回の100万円超という数字は、労働組合との交渉が整い、業績や賃上げを賞与に反映しやすい大手企業の数字です。中小企業、特に零細企業の現場感覚とは大きく違います。
日本企業の大多数は中小零細企業
日本の企業数を見ると、大企業は全体の0.3%です。中小企業は336.5万者で99.7%、そのうち小規模事業者は285.3万者で84.5%を占めています。企業数で見れば、日本企業のほとんどは中小企業です。さらに、その多くは小規模・零細企業です。働く人の割合で見ても、中小企業で働く従業員は約7割です。日本政策金融公庫総合研究所の資料でも、日本の従業員数全体に占める中小企業の従業員数割合は69.7%とされています。大企業で働く人が約3割という数字はありますが、それは中小企業庁などの定義による大企業全体の割合です。経団連の今回の賞与集計に含まれる112社で働く人の割合ではありません。「大手企業の夏ボーナス平均100万円超」という見出しだけを見ると、日本全体で賞与が大きく増えているように見えます。実際には、日本企業の99.7%を占める中小企業とは別の世界の数字です。
中小零細企業の賞与水準とは大きな差がある
帝国データバンクの2026年夏季賞与の動向アンケートでは、正社員1人あたりの夏季賞与の平均支給額は47.7万円です。賞与が増加する企業は37.1%ですが、大企業では44.4%、中小企業では36.0%、小規模企業では31.4%となっており、企業規模による差が出ています。賞与がない企業も11.0%あります。大手企業の100万8,706円と、全体平均の47.7万円では、なんと2倍以上の差があります。厚生労働省の毎月勤労統計を基にした2025年夏季賞与の結果でも、事業所規模5人以上の調査産業計では、賞与を支給した事業所における1人平均額は42万6,337円です。全事業所ベースでは36万681円です。大手企業の賞与が100万円を超えても、中小零細企業が同じように賞与を増やせるわけではありません。中小零細企業では、原材料費、仕入価格、外注費、運送費、光熱費、人件費、社会保険料が上がっています。価格転嫁が十分にできていない会社も多くあります。売上が増えても利益が残らない。利益が出ていても資金繰りに余裕がない。月例賃金を上げるだけで精一杯。採用のために給与水準を上げたいが、固定費の増加が重い。賞与を増やしたくても先の資金が読めないなど、社労士として中小零細企業に関与していると、その厳しさを実感します。
中小零細企業は続けられる賞与制度を考える
中小零細企業が、大手企業の賞与水準を追いかける必要は全くありません。無理をして一度だけ高い賞与を支給すれば、翌年以降の期待値になります。業績が下がったときに支給額を下げれば、不満につながります。賞与は従業員の生活にも関わりますが、会社の資金繰りにも直結します。賞与を考えるときは、金額だけでなく、制度としての整理が必要です。業績に応じて支給するのか。評価に応じて差をつけるのか。生活支援として一定額を支給するのか。決算状況を見て支給するのか。支給しない場合があるのか。この考え方が曖昧なままでは、毎年の賞与が「前年並み」になりやすくなります。会社側も説明しにくく、従業員側も納得しにくくなります。また、就業規則や賃金規程の確認も必要です。賞与を必ず支給する内容になっていないか。会社の業績により支給しない場合があると書かれているか。支給日在籍要件はあるか。休職者、欠勤者、退職予定者の取扱いは決まっているか。評価期間と支給対象者は整理されているか。このあたりが曖昧だと、賞与を減額するとき、支給しないとき、退職予定者に支給しないときにトラブルになります。
大手企業の夏ボーナス100万円超は、景気の良いニュースですが、それは中小零細企業の現実ではありません。日本企業の99.7%は中小企業です。多くの会社は、限られた利益の中で、賃上げ、採用、社会保険料、賞与支給に向き合っています。中小零細企業に必要なのは、大手企業との横並びではありません。自社が継続して雇用を守れる範囲で、従業員に説明できる賞与制度を整えることです。賞与を増やすには、原資が必要です。利益が必要です。価格転嫁が必要です。生産性の向上も必要です。「大手が上げたから中小も上げるべきだ」という単純な話ではありません。中小零細企業には、中小零細企業の経営実態があります。持続可能な賃金制度こそ企業の持続を可能にします。
仙台・東京港区の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ





