
2026年7月28日、中央最低賃金審議会から、2026年度の地域別最低賃金引上げ額の目安が示されました。引上げ額の目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円です。目安どおりに改定された場合、最低賃金の全国加重平均は1,176円となり、現在より55円、率にして4.9%上昇します。今後は地方最低賃金審議会で審議が行われ、都道府県ごとの最低賃金額と発効日が決定されます。新聞販売店では、配達区域ごとの月額固定給や、配達部数に応じた出来高給が多く使われています。早朝配達には深夜割増賃金も発生するため、最低賃金改定時には、支給額と実際の労働時間を配達員ごとに確認する必要があります。さらに、人材難、高齢化、新聞部数の減少、折込チラシ収入の減少が同時に進んでいます。人件費の上昇を賃金計算上の対応にとどめず、配達区域と人員体制を含めて検討することが重要です。
新聞販売店で進む人材難・高齢化・収入減少
日本新聞協会の調査によると、2025年10月時点の新聞総発行部数は2,486万8,122部で、前年から6.6%、約175万部減少しました。1世帯当たりの部数も0.42部まで低下しています。新聞部数の減少は、購読料収入に加え、販売店の重要な収益源である折込チラシにも影響します。2025年の折込広告費は2,354億円で、前年比96.4%となりました。一方で、新聞販売店には、配達員、バイク、燃料、店舗、折込作業などの費用が継続して発生します。配達先が減っても、購読世帯が区域内に点在すれば移動距離は大きく変わりません。部数が減ったことで、1部を届けるための移動時間が長くなる区域もあります。配達員の確保も難しくなっています。2025年10月時点の新聞販売所従業員数は19万5,551人で、前年から5.8%減少し、調査開始以来初めて20万人を下回りました。成人従業員の75%を50代以上が占め、70歳以上の割合は28.4%に達しています。欠員区域を経営者や既存の配達員が担当している販売店も多いと考えられます。しかし、担当区域の追加は、配達時間の長期化、深夜労働の増加、交通事故や転倒の危険、配達員の離職につながります。最低賃金改定への準備では、人件費の増加額とともに、現在の人員で維持できる配達区域を確認する必要があります。
区域給・出来高給の最低賃金をどう確認するか
新聞配達員に「この区域を担当すれば月額6万円」「朝刊1部につき月額○円」といった区域給や出来高給を支払っている場合も、最低賃金が適用されます。完全出来高給の場合は、最低賃金の対象となる賃金を、その賃金計算期間の総労働時間で割って時間額を算出します。固定給と出来高給を併用している場合は、それぞれを時間額へ換算して合計します。時間外割増賃金や深夜割増賃金は、最低賃金との比較から除外します。例えば、月額6万円の区域給を支払っている配達員が、1か月に60時間働いていた場合、時間額は1,000円です。仮にその地域の最低賃金が1,100円となれば、通常賃金として少なくとも月額6万6,000円が必要です。新聞配達では、午前2時や午前3時から勤務するケースも多く、午後10時から午前5時までの労働には25%以上の深夜割増賃金が加算されます。最低賃金が1,100円で、月60時間の勤務がすべて深夜時間帯だった場合、通常賃金6万6,000円に、深夜割増1万6,500円を加えた8万2,500円以上の支払いが必要です。区域給に深夜手当を含める場合も、通常賃金部分と深夜割増部分を区分し、それぞれの計算根拠を明確にしておく必要があります。
配達時間ではなく実際の勤務時間を把握する
新聞販売店で確認すべき労働時間は、新聞を各家庭へ配っている時間に限られません。販売店で行う新聞の荷受け、仕分け、折込チラシの組込み、バイクへの積込み、配達後の不着確認、残紙整理、片付けも、使用者の指示に基づく業務であれば労働時間に含まれます。例えば、配達時間が午前3時から午前4時30分までの1時間30分であっても、午前2時30分から仕分けと積込みを行い、午前4時45分に片付けを終えている場合、実際の労働時間は2時間15分です。雇用契約書に記載した標準時間より実際の勤務時間が長ければ、実際の時間を基に最低賃金と深夜割増賃金を計算します。厚生労働省のガイドラインでは、使用者が労働日ごとの始業時刻と終業時刻を確認し、記録することを求めています。新聞販売店では、折込量、天候、積雪、道路状況、不着対応によって所要時間が変わります。通常日だけで判断せず、折込量の多い日や悪天候の日を含めて一定期間記録することが必要です。その記録を基に、区域給や出来高給を時間額へ換算し、最低賃金改定後の人件費を試算します。仮に最低賃金が56円上がり、配達員が深夜帯に1日2時間、月25日勤務している場合、通常賃金は月2,800円増加します。深夜割増の増加額は月700円となるため、配達員1人当たりの負担増は月3,500円、年間4万2,000円です。同じ条件の配達員が20人いれば、年間84万円の増加となります。代配担当者、折込担当者、区域責任者の賃金も見直す場合は、さらに人件費が増えます。
人手不足を前提に配達区域と賃金を見直す
配達員の採用が難しい状況では、現在働いている人が安全に勤務を続けられる体制づくりが優先されます。欠員区域を既存の配達員へ追加する際は、区域給だけを上乗せするのではなく、仕分けから片付けまでの労働時間を改めて計測します。業務量が増えたにもかかわらず従来の区域給を据え置けば、時間額が最低賃金を下回る可能性があります。配達区域の負担は部数だけでは判断できません。配達先までの距離、住宅の密集度、集合住宅の数、階段、坂道、道路状況、積雪の影響などによって所要時間が変わります。区域を再編する際は、配達員の年齢、健康状態、運転経験も考慮します。高齢の配達員へ長距離区域や道路状況の悪い区域を集中させると、事故や体調悪化の危険が高まります。配達ルートの共有や勤怠システムは、実労働時間の把握や代配の準備には役立ちます。ただし、採用難を直接解消するものではないため、DX導入より先に、現在の区域と人員配置を見直す必要があります。自店だけで欠員を補うことが難しい場合は、新聞社や近隣販売店と早めに協議し、代配体制や配達区域の調整を検討します。欠員が生じてから対応するのではなく、退職、休職、体調不良が発生した場合に、誰がどの区域を担当するかを整理しておくことが重要です。2026年度の最低賃金額が確定した後に準備を始めると、配達員全員の労働時間調査、区域給の再計算、深夜割増単価の変更、雇用契約書や給与計算設定の修正が間に合わない可能性があります。まずは配達員ごとの実労働時間を把握し、区域給・出来高給を時間額へ換算します。そのうえで、改定後の通常賃金、深夜割増賃金、年間人件費を試算し、配達区域と人員体制を見直します。新聞販売店の最低賃金対応では、正確な労働時間管理と、配達員に無理をさせない区域設定が、法令遵守と人材定着の両面で重要になります。
社会保険労務士法人ブレインズでは、新聞販売店における区域給・出来高給の時間額換算、深夜割増賃金の確認、労働時間管理、賃金通知書、雇用契約書、就業規則の見直しを支援しています。





