
イオンモール熊本で発生した爆発事故により、尊い命を失われた皆様に心より哀悼の意を表します。ご遺族の皆様には、謹んでお悔やみ申し上げます。報道によると、雑貨店を運営する会社は、地震後にいったん屋外へ避難した女性従業員2人に対し、売上金を金庫へ移すため館内へ戻るよう指示したことを明らかにしました。2人はその後の爆発に巻き込まれ、亡くなりました。仙台で東日本大震災を経験して、そしてあの災害で従業員を2名を亡くした経営者として、強くお伝えしたいことがあります。
大災害の際は「とにかく逃げる」が基本です。
人命より大切な売上金、商品、設備、書類など、一つもありません。
避難後、売上金のために館内へ戻った従業員
イオンの公表資料によると、2026年7月28日午後4時27分ごろに最大震度7の地震が発生し、午後5時には客と従業員の屋外避難が確認されていました。その時点で、施設内では天井や外壁の一部落下、スプリンクラーの作動といった被害も確認されています。爆発が起きたのは午後5時50分ごろでした。事故による被害は死者7人、負傷者5人と公表されています。その後、店舗運営会社が、売上金を金庫に移すため女性従業員2人を館内へ戻したと説明しました。売上金を守ろうとした従業員を責めることはできません。責任感の強い人ほど、上司から頼まれれば「自分がやらなければ」と考えます。「可能であれば」「できそうなら」という言い方であっても、上司から部下に伝えれば、部下は業務命令に近いものとして受け止めます。だからこそ、止めなければならないのは会社側です。
東日本大震災を経験して伝えたい「とにかく逃げる」
私は仙台で東日本大震災を経験しました。大きな地震の直後は、次に何が起きるのか誰にも分かりません。余震、津波、火災、ガス漏れ、建物の倒壊、天井や外壁の落下など、最初の揺れを切り抜けても二次災害が発生します。2016年の熊本地震では、4月14日にマグニチュード6.5の地震が発生し、その約28時間後に、さらに規模の大きいマグニチュード7.3の地震が発生しました。いずれも最大震度7を観測しています。気象庁も、大きな地震の後は建物や地盤の強度が低下し、最初の地震と同程度、場合によってはそれを上回る地震が発生することがあると注意を呼びかけています。爆発を具体的に予測できなかったとしても、強い地震によって被害を受けた建物へ戻ること自体に重大な危険があります。財布やスマートフォン、会社のパソコン、重要書類、商品、売上金が残っていても、取りに戻ってはいけません。安全確認が終わり、施設管理者や消防、警察などから再入館の許可が出るまでは、絶対に戻らないことが原則です。
会社の指示に問われる安全配慮義務
労働契約法第5条は、使用者に対し、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう必要な配慮を求めています。また、労働安全衛生法第25条では、労働災害が発生する差し迫った危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を退避させるなどの措置を講じなければならないと定めています。報道されている指示の内容が事実として認定された場合、安全配慮義務違反による損害賠償責任が問われる可能性があります。さらに、指示を出した者に危険を回避すべき注意義務があり、危険の予見可能性や事故との因果関係が認められれば、業務上過失致死傷罪の成否も捜査上の論点となり得ます。現段階では爆発原因や指示系統などの調査が続いており、刑事・民事責任を断定できる状況にはありません。それでも、売上金を守るために、避難した従業員を被災建物へ戻す判断の重さは明らかです。企業に求められるのは謝罪にとどまりません。指示に至った経緯、誰が判断したのか、施設側の避難ルールがテナント内で共有されていたのか、途中で指示を止められなかった理由まで検証し、再発防止につなげる必要があります。
企業は「戻らせない仕組み」を今すぐ整えるべき
災害時に従業員の命を守るには、「各自で安全に判断してください」という呼びかけだけでは足りません。会社として、避難後の再入館を明確に禁止する必要があります。災害マニュアルには、施設管理者や消防などの安全確認が終わるまで再入館しないこと、売上金や商品、私物を回収しないこと、管理職であっても再入館を指示できないこと、避難によって生じた金銭的損失について従業員に責任を負わせないことを明記すべきです。併せて、「売上金を置いて逃げた従業員を会社として正しく評価する」と経営者が繰り返し伝えることも重要です。上司の指示と災害マニュアルが衝突した場合は、災害マニュアルと人命を優先することまで訓練で確認しなければなりません。売上や利益は、従業員が無事に家族のもとへ帰ることができて、初めて成り立つものです。従業員とその家族、顧客、取引先を大切にした先に、企業への信頼と事業の継続があります。目の前の売上金を守ろうとして、かけがえのない命を危険にさらす判断を、二度と繰り返してはいけません。
大災害の際は、とにかく逃げてください。
人命より大切なものなどありません。





