分娩費、全国一律に 出産無償化へ厚労省検討 お祝い膳などは除外(朝日新聞)のコメント一覧 – Yahoo!ニュース
産む前に起きている危機
厚生労働省が分娩費用を全国一律の基準にそろえ、正常分娩の妊婦負担をゼロにする方針で議論を進めています。しかしこの制度の導入を待つよりも早く、出産を支える産婦人科の減少という別の危機がすでに地域で始まっています。日本では昨年の出生数が約68万人となり、かつて毎年270万人が生まれた時代と比べ、数のスケールは大幅に縮小しました。それでも産科は24時間体制で分娩対応に備えなければならないため、人件費、設備維持費、救急受け入れ体制の待機コストを常に病院側が面で負担しています。出生数が急増しない地域では、一律の分娩基本単価だけでこの面のコストを吸収できないため、制度が始まる前に産科拠点が撤退・閉鎖に追い込まれてしまっています。年間に10人以下しか子どもが生まれない自治体が149か所、1年間で1人も出生がない自治体が7か所ある日本では、分娩のニーズは点で存在していても、それを支える体制のコストは広い面で発生しています。この構造は、出産費が平均でいくらか、という話より先の時間で、出産を受け入れる病院そのものが維持できないという現実を生んでいます。
一律化制度が届くより先に壊れている現場
産婦人科の撤退は料金より前に起きている
産婦人科が無くなる理由は、自由価格制の料金差だけではなく、出生数の少なさのままでも24時間シフトを維持しなければならないという運用コストの構造にあります。東京都では出産費用の高さが問題になりますが、多くの地方や過疎地域では、妊婦家庭の料金負担より先に、分娩シフトを回せる医師と助産師の確保、予約受付の仕組み、緊急オペ体制、救急周産期連携ネットワークの維持が経営の限界と直結しています。「産みたいと思った時に、その場所と体制が存在しない。」これが無償化制度の導入より早く訪れている現状の課題と考えます。
医師と助産師が地域から流出する構図は続いている
出生数が多い都市部では分娩体制を維持できても、出生数が非常に少ない自治体では医師1人の夜間当直で運用されている病院も多く、分娩対応数に応じた診療報酬の仕組みだけでは体制維持の固定コストに足りません。人材の確保や柔軟なシフト体制が組めず、その支援を必要とする個人すら地域から流出しています。周産期連携が成立しない状態では、「移動」「予約」「医師調整」という一連の調整コストと違法のリスクも増し、結果として地方や過疎ほど出産インフラが守れない悪循環に至っています。件数が少ない地域ほど診療報酬だけでは経営が成り立たず、継続的なインフラ補助こそを議論の優先にしなければ、無償化制度の価値は届く前に消え去るでしょう。
出産を支える土台をつくりなおす
出産無償化制度を成功させるには前段支援がいる
制度ができてから考えるのでは遅いと考えます。今すぐ必要なのは、出生件数が少ない自治体でも経営が破綻しない報酬加重モデル、当直シフトの維持費補助、人材移住支援、設備投資の直接補助、予約受付のDX投資支援など、産科拠点とその運用コストの耐久力を支える政策ではないでしょうか。
地方自治体と政府政策のつながりが必要
出産支援制度を語る時、妊娠、分娩、救急連携、産後合併症対応までを、個人ではなく病院側の固定コストとして直接支える保障構造にするまでを同時に設計しなければなりません。制度は、出生の件数が増えることを願う政策だけではなく、増えない状態が続いたとしても医療機関が存続できる保障構造でなくてはならないと思います。
まとめ
分娩費用の全国一律化と妊婦負担ゼロという制度改革は大きなステップです。しかし地域には、制度導入の話より先に分娩ができなくなっている自治体があります。料金の無償化政策を実行する速度と同じくらい、地域の産科病院がつぶれず医師と助産師が地域に居続けられる社会設計までを制度の基礎に置く必要があります。制度原資の供給は、誰がいくら支払わなくて良いかだけの設計ではなく、出産を受け入れられる医療機関の実装コストそのものを倒れさせない設計へ進まなければ、本当の出産の安心には届かないと思います。



