
2026年1月14日、厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会・労災保険部会)が、労災保険制度の見直しに関する報告(案)を取りまとめ、遺族補償年金の支給要件に残っていた男女差の解消を「適当」としました。厚労省は通常国会に改正法案を提出する方針と報じられています。今回のニュースの核は、「夫だけに課されていた条件(55歳以上・一定障害など)を撤廃する」という点です。これにより、配偶者が妻か夫かで入口が変わっていた仕組みを改め、遺族補償年金を性別に依存しない形へ組み替える方向が明確になりました。あわせて、遺族が1人の場合の給付の形を揃える見直し(特別加算の廃止、給付基礎日額を175日分とする整理)や、請求権の時効を「2年→5年」に延長する対象を設けることなども示されています。
労災の制度を踏まえると、なぜこの改正が「大きい」のか
労災保険は、仕事(業務)または通勤によって生じた負傷・疾病・障害・死亡について、事業主の過失の有無を問わず、国が給付を行う制度です。民事賠償が「責任」を軸にするのに対し、労災は「仕事による損害に対する生活保障」を軸に設計されています。だからこそ、死亡した場合の遺族補償年金は、単なる弔慰ではなく、遺族の生活を長期に支えることが制度の中心目的になります。この「生活保障」という性格が、これまでの男女差の背景でもありました。制度は長らく、いわゆる性別役割分業を前提に、「妻は年齢にかかわらず生活維持が困難になりやすい」「夫は就労して生計を維持できる」という見立てを組み込み、夫にだけ年齢・障害といった条件を置いてきたわけです。今回の部会報告(案)は、その前提が就業構造の変化に合わないとして、夫にのみ課していた支給要件の撤廃を明確に打ち出しました。
さらに、遺族補償年金の“給付の形”にも手が入ります。報告(案)では、高齢や障害のある妻に対して設けられていた特別加算を廃止し、遺族が1人の場合の給付基礎日額を175日分とする整理が「適当」とされています。ここは誤解が起きやすいのですが、ポイントは「加算をなくして薄くする」というより、複雑な上乗せ構造をやめ、基準自体を揃える設計へ寄せる点にあります(給付の考え方を“例外だらけ”から原則一本に寄せる)。
何が変わるのか(改正の中身)と企業・実務での注意点
改正の中心は、繰り返しになりますが、配偶者について「夫にのみ課された支給要件を撤廃する」ことです。これにより、配偶者が夫であることを理由に遺族補償年金の入口で外れる構造は、制度として是正される方向になります。また、この見直しは労災保険だけでなく、石綿健康被害救済法の特別遺族年金でも同様に扱うことが適当とされています。制度横断で「配偶者要件の性別差」を揃えにいく整理です。
次に、ニュースとして実務影響が大きいのが時効です。報告(案)では、もともと時効が2年とされている給付について、発症後すぐの請求が難しい疾病を原因として請求する場合は、時効を5年に延長することが適当とされ、まずは脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病等を対象にする考え方が示されています。過労死・過労自死・職業性疾病の領域では、「いつから時効が動くのか」「どの給付が2年類型なのか」が案件の帰趨を左右し得ます。制度が動く局面では、社内の労災対応フローや顧問先向けの説明文言を、旧要件のままにしないことが重要です。
加えて適用関係では、暫定任意適用事業の廃止と、労災保険法の順次強制適用の方向性が示されています。ニュース記事では「小規模の農林水産事業者の強制加入」が触れられていますが、部会資料でも農林水産省と連携しつつ強制適用に必要な期間を設ける旨が書かれており、今後は任意で入る/入らないの整理が変わっていく流れです。
仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ



