
建設・物流で「人手不足倒産」が過去最多になったというニュースが出ました。ここで語られがちなのは「中小企業の経営努力が足りない」「生産性が低い」「賃上げできないのが悪い」といった自己責任論ですが、社労士の立場で現場を見ていると、その見方だけでは説明しきれない部分が大きいと感じます。今回の倒産増は、採用難という単純な問題ではなく、制度改革の設計や運用が現場の実態と噛み合わないまま進んだことによって、現場が成立する条件が崩れてきた結果ではないかと考えます。建設も物流も、人が足りないこと自体が問題なのではなく、人が足りない状況でも回る前提を作りにくい構造になっている点が、倒産増加の背景にあるのではないでしょうか。2026年もこの流れが続く可能性は高いと考えます。
働き方改革は理念として正しくても、現場に適用する設計が追いついていないと考えます
働き方改革の目的である長時間労働の是正や健康確保は重要であり、その方向性自体を否定することは難しいと考えます。ただ一方で、制度が現場に入った瞬間に「守らないといけない枠」だけが強く働き、現場の不確実性を吸収する仕組みの整備が十分でないまま運用が始まってしまった側面があるのではないでしょうか。建設も物流も、天候や渋滞、荷待ち、段取り変更、資材遅れ、突発対応などの「ズレ」が起きることを前提に成立している産業です。本来は、そのズレを吸収する余白を工程設計や運行設計、取引条件の中に織り込む必要があると考えますが、現実には余白が十分に確保できないまま稼働しているケースが多いように見受けられます。この状況で時間外労働の上限規制が本格適用されると、これまで現場が最後に頼ってきた「残業で帳尻を合わせる」という仕組みが機能しにくくなると考えます。ここで起きるのは「少し残業が減って大変になった」というレベルではなく、仕事の回し方そのものが成立しにくくなり、工程遅れや納期遅れが積み上がりやすくなるという問題ではないでしょうか。その結果として信用不安が起き、資金繰りが急激に悪化する企業が出てくることも不自然ではないと考えます。
現場を追い込むのは時間規制そのものより規制の外側が放置されている点だと考えます
建設・物流の倒産が増えた背景を考えると、時間規制が導入されたこと自体よりも、その前提となる周辺の仕組みが変わらないまま、現場だけが規制の枠に合わせることを求められている点が大きいのではないかと考えます。物流であれば、荷待ちや荷役の負担は現場の努力だけで減らせるものではなく、発着側の運用改善や商慣行の見直しがなければ時間は消え続けてしまいます。建設であれば、施主や元請け主導で工期が詰められ、段取り変更や追加対応が当然のように発生する現場では、時間規制だけを強化しても成立条件が崩れやすいのではないでしょうか。社労士として懸念するのは、制度の側が「無理をするな」と求める一方で、無理をしないと契約や工程が回らない構造が残っているケースです。この状態では、企業はコンプライアンスを守れば現場が止まり、守れなければ違反リスクを抱えるという二択に追い込まれやすいと考えます。さらに厳しいのは、こうした構造上の問題があっても倒産が起きた時に「経営が悪い」「努力不足」と言われやすいことです。しかし現場感覚としては、供給力が縮むことは制度変更の段階で見えていたはずであり、縮む分をどこが吸収するのかを制度側も含めて設計し直さなければ、倒産が増えるのは避けがたい面があるのではないかと考えます。
2026年も続く現場崩壊を止めるには、制度改革を回る形に組み直す必要があると考えます
2026年も人手不足倒産が続く可能性がある理由は、労働力人口が増えにくいことだけではなく、制度改革が現場で成立するようにセットで整備されていない点が残るからではないでしょうか。建設・物流は、時間だけを管理して解決する産業ではなく、現場の不確実性を吸収する仕組みが不可欠だと考えます。荷待ちを減らす、荷役負担を減らす、工期を適正化する、急な変更を減らす、計画通りに進められる前提を作るといった、周辺構造の見直しが伴わなければ、上限規制だけが現場を圧迫する形になりかねません。人手不足倒産の増加は企業単体の問題というより、社会インフラとしての供給網が薄くなっているサインとも言えるのではないでしょうか。建設や物流が止まれば製造業の計画も、地域の生活も、公共事業も影響を受けます。倒産が増える状況を放置することは、経済全体の脆弱性を高めることにつながると考えます。だからこそ、制度改革は理念の勝利で終わらせるのではなく、現場で回る形へと作り直す必要があるのではないでしょうか。人手不足倒産の本質は「人がいないこと」そのものではなく、人が足りない状況に耐えられる設計が制度面・取引面で十分に整っていない点にあると考えます。2026年以降も現場が崩れないようにするためには、現場の努力に頼るのではなく、制度改革を現場が成立する条件に合わせて再設計する議論があればと思います。



