
2026年度の年金は増額だが生活が楽になるとは限らない
厚生労働省は、2026年度(令和8年度)の公的年金支給額を引き上げると発表しました。国民年金は前年度比1.9%、厚生年金は2.0%の増額となり、4年連続の増額です。国民年金(老齢基礎年金・満額)は月あたり約1,300円の増加とされ、厚生年金は夫婦2人のモデル世帯で月額4,495円増の月23万7,279円になる見込みです。数字だけを見ると前向きなニュースに見えますが、社労士として現場の声に触れていると「増えたのに苦しい」という感覚が残りやすい改定でもあります。なぜなら、物価が上がるスピードに対して年金の伸びが追いつかない局面が続いているからです。
マクロ経済スライドとは「年金が増えるのに増え切らない」仕組み
今回の改定の核心は、マクロ経済スライドが4年連続で適用された点です。マクロ経済スライドは、物価や賃金が上昇したときに年金も増える一方で、その増え方を一定程度抑える仕組みです。制度の狙いは、少子高齢化の中でも年金制度を持続させ、将来世代の年金水準を確保することにあります。2026年度の場合、本来の改定率の基礎となる名目手取り賃金の変動率は2.1%とされていますが、年金の改定率は国民年金1.9%、厚生年金2.0%に抑えられています。この差が「年金は増えるが、満額では増えない」という現象を生み、生活者の実感としては増額が弱く感じられる要因になります。
社労士視点で重要なのは「現役世代と企業負担」と説明責任
年金の増額は受給者にとって必要な支えですが、その原資は結局のところ現役世代の保険料で成り立っています。しかも厚生年金の保険料は労使折半であるため、保険料負担が重くなれば社員の手取りが増えにくくなり、会社の負担も確実に増えます。現場では、賃上げの必要性は理解していても原材料高や人手不足の中で「上げたくない」のではなく「上げられない」という会社も少なくありません。そこに社会保険料負担が重なると、賃上げの効果が薄れたり、採用や人件費設計にブレーキがかかったりするなど、企業経営そのものに影響が出てきます。
その一方で、受給者側から見れば「物価高なのに年金が追いつかない」と感じやすく、現役世代から見れば「負担ばかり増える」となりやすい構造です。つまりマクロ経済スライドは、制度維持のために必要な仕組みである一方、どちらの立場にも不満が残りやすい制度でもあります。だからこそ本来は、単に「増額しました」とだけ伝えるのではなく、なぜ増え方が抑えられるのか、誰がどの負担を背負っているのかを丁寧に説明し、国民の納得感を作ることが不可欠だと考えます。
仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ



