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労使トップ会談で「春闘」事実上スタート「物価上昇を上回る賃上げ」実現できるかが焦点に

労使トップ会談で「春闘」事実上スタート…「物価上昇を上回る賃上げ」実現できるかが焦点に(読売新聞オンライン) – Yahoo!ニュース

2026年春闘が、経団連と連合のトップ会談で事実上スタートしました。報道では、経団連側は「ベースアップの検討を賃金交渉のスタンダードに」と述べ、連合側は「3年連続で5%以上は当然」と強調しています。 ただ、社労士として中小企業の相談を日常的に受けている立場から見ると、ここで語られる賃上げの前向きさは、中小の現場条件を前提に置いたものになっていません。言葉は正しい。しかし、前提が違う。だから現場では「理屈は分かるが、実装が無理」という反応になります。

「5%」が社会の標準になるほど中小は置き去りになる

まず押さえるべき現実は、賃上げ率が同じ日本の中でも、企業規模で結果が割れていることです。厚労省資料でも、2025年の経団連集計ベースでみれば、大手のアップ率が5.39%に対し、中小は4.35%で約1ポイントの差が出ています。 「5%超え」がニュースの中心に据えられるほど、このギャップは見えなくなるのが問題です。大企業の5%は「持続の議論」ですが、中小の4%台は「限界の議論」になりやすい。ここを混同したまま「今年も5%」が標準化すると、中小は賃上げを迫られながら、価格転嫁も追いつかず、利益を削って耐えるしかなくなります。一方で連合自身も、中小の目標を全体より高い「6%以上」と置き、非正規は「7%」を掲げ、ベアは「3%以上」としています。 つまり中小ほど上げろという設計です。しかし、そこで必要なのは気合ではなく条件です。賃金は最終的に固定費です。ベアを「交渉のスタンダード」にするという言葉は、売上が波打つ中小にとっては、「固定費を毎年厚くする」意思決定を常態化させる宣言に等しいと思います。

賃上げのカギは「価格転嫁」だが、現実には半分しか転嫁できていない

賃上げを中小にまで波及させる条件は、結局のところ価格転嫁です。ここは精神論ではなく数字で見るべきです。中小企業庁の「価格交渉促進月間」フォローアップでは、2025年9月時点で全体の価格転嫁率が53.5%、労務費の転嫁率が50.0%、エネルギーコストが48.9%とされています。 つまり、賃上げの原資になりうる「労務費」すら、増えた分の半分程度しか取引価格に乗っていない。この状態で「ベア3%が標準」と言われても、中小は原資を作れません。加えて、民間調査でも価格転嫁の弱さは繰り返し出ています。帝国データバンクの調査では、仕入れコスト上昇に対する価格転嫁率が40.6%という結果も示されています。 調査時点や設問が違うので単純比較はできませんが、言いたいのは一点で、「転嫁が進んでいる」という物語の裏で、依然として取れていない企業が厚いということです。中小の賃上げを語るなら、トップ会談で本来セットにすべきは「ベアの標準化」ではなく、「転嫁できない取引構造をどう壊すか」です。そして、同日の別報道では電機連合がベア統一要求を月1万8000円以上(5%相当)とする決定も伝えられました。 こうした金額で迫る要求は、大手サプライチェーンの価格決定にも影響し得ます。賃上げ要求の強度だけが上がり、転嫁の実効性が追いつかなければ、現場は壊れるように思います。

実質賃金マイナスの「原因」を外したまま、賃上げだけを叫ぶ危うさ

「物価上昇を上回る賃上げ」が焦点だと言われる背景には、実質賃金がマイナス基調にあることが挙げられています。実際、毎月勤労統計でも実質賃金の前年同月比を追うと、マイナス局面が続いていることが示されています。 だから賃上げが必要、までは正しい。しかし、ここで議論が雑になると、「賃上げだけが正義」になってしまう。中小企業の現場では、実質賃金の押し下げ要因である物価上昇に、原材料・エネルギー・物流・外注費など複数のコストが重なって直撃します。そのうえで、労務費は転嫁できても半分程度という世界です。 この構造のまま賃上げ目標だけを上げれば、企業は値上げできず利益が薄くなる、賃上げで固定費が増える、資金繰りが詰まるという順番で追い込まれます。結果として賃上げどころか、採用抑制・残業抑制・外注化・事業縮小に進み、地域雇用が痩せる。ここまで含めて議論しない限り、「物価超え賃上げ」は中小にとっては要請ではなく退場勧告のように聞こえます。

社労士として言うべきことは明確です。中小に賃上げを求めるなら、同時に「価格転嫁の実効性」を強制力ある形で高め、官公需も含めた取引適正化を徹底し、労務費転嫁が例外ではなく当たり前になる環境を作るべきではないでしょうか。そうでない限り、春闘のきれいな言葉は、中小の現場では「分かっていない人の話」として消費され続けるようになると思います。

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