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プルデンシャル生命の採用停止が示すもの

営業職員の新規採用停止 金銭詐取、被害拡大防止 プルデンシャル生命 (時事通信) – Yahoo!ニュース

ライフプランナー制度は労働法の枠内に収まっているのか

プルデンシャル生命保険が、営業職員である「ライフプランナー」の新規採用を停止しました。社員らによる大規模な金銭不正問題を受け、新規契約の販売活動を90日間自粛し、採用活動も全面的に凍結するという異例の対応です。報道によれば、1991年以降で100人超の社員が関与し、被害者約500人、被害総額は約31億円にのぼるとされています。この問題は単なる不祥事にとどまりません。むしろ、ライフプランナーという営業職の制度設計そのものが抱えてきた構造的な矛盾が、一気に表面化した出来事だと見ることもできるかもしれません。とりわけ社労士の視点から見ると、この制度はもともと極めて危うい土台の上に成り立っているように感じます。


ライフプランナー制度は「雇用」なのか「委託」なのか

ライフプランナーは公式には正社員として扱われています。社会保険は一般社員と同様に適用され、雇用契約を締結した社員という位置づけです。しかしその一方で、所得は給与所得ではなく事業所得とされ、営業活動にかかる費用はすべて自己負担、確定申告も自ら行う仕組みになっています。働き方も直行直帰が基本で、労働時間の管理はほとんど行われません。この構造は、労働法の基本原則から見ると明らかに異質です。正社員という建付けであれば、会社には労働時間の把握義務があり、時間外労働が発生すれば割増賃金を支払う義務があります。また、業務遂行に必要な経費は本来会社が負担すべきであり、働いた時間に対して最低賃金以上の賃金を保障することも雇用主の法的義務です。ところがライフプランナー制度では、これらの枠組みがほぼ機能していません。成果が出なければ実質的に収入はゼロに近づき、活動費はすべて自己負担という運用は、完全歩合の個人事業主とほとんど変わらないものです。正社員でありながら労働者としての保護が働かず、しかし個人事業主でもない。この中途半端な立ち位置こそが制度の最大の問題点のように感じます。これまでこの構造が大きく問題化しなかったのは、制度上、労働者として会社と争う人が極端に少なかったからのように思います。成功者は高収入を得るため不満を持たず、うまくいかない人は早期に退職するため、未払い賃金請求などの法的紛争に発展しにくいという特殊な環境があったのかもしれません。


不正問題は制度設計の歪みから生まれている

今回発覚した大規模不正は、個々の営業職員のモラルだけで説明できる問題ではありません。むしろ、ライフプランナー制度が持つ構造的なプレッシャーが、不正の温床になっていたと考えるのが自然です。完全歩合に近い報酬体系の中で、収入を得るためには常に契約を取り続けなければならない。一方で、営業活動にかかるコストは自己負担であり、売上がなければ生活すら成り立たない。このような環境では、短期的な成果を最優先する行動原理が強く働きます。結果として、顧客保護やコンプライアンスよりも目先の数字が重視され、不正に手を染める心理的ハードルが下がってしまうのです。本来であれば、労働者として会社が適切な労務管理を行い、過度な成果主義に歯止めをかける役割を果たさなければなりません。しかし労働時間の管理もなく、経費も個人負担という現在の仕組みでは、会社が労働者を保護する機能が著しく弱体化しています。今回の事件は、まさにこの制度的欠陥が引き起こした必然の帰結と言えるでしょう。


今回の採用停止は「働き方そのもの」を問い直す契機

プルデンシャル生命は今回の事態を受け、「ガバナンス体制と営業制度の抜本的見直し」を掲げています。しかし本当に必要なのは、単なる内部統制の強化ではありません。雇用なのか業務委託なのかを曖昧にした現在の制度構造そのものを見直すことかもしれません。正社員として雇用するのであれば、労働基準法に基づいた時間管理と賃金保障を徹底し、業務に必要な経費は会社が負担するという原則に立ち返る必要があります。逆に、完全な自由裁量型の営業職として運用したいのであれば、社会保険を含めた処遇を個人事業主型に切り替え、雇用契約の枠組みから外すという選択も理論上はあり得ます。どちらにも寄り切らない現在のハイブリッド構造こそが曖昧かつ危険なのです。労働法の潮流は年々、労働者保護とコンプライアンス重視へと向かっています。フリーランス保護の強化や労働者性判断の厳格化が進む中で、ライフプランナー制度のような曖昧な運用は今後ますます許容されにくくなるでしょう。今回の採用停止は、一時的な危機対応ではなく、働き方そのものを根本から再設計する転換点と位置づけられるべきではないでしょうか。ライフプランナー制度は長年、「自由で高収入を目指せる正社員」という魅力的な物語によって支えられてきました。しかし今回の不正問題は、その物語の裏側にあった法的矛盾を白日の下にさらしました。プルデンシャル生命が今後どこまで本気で制度改革に踏み込めるのか。企業統治だけでなく、労働法の観点からもまさに正念場を迎えているように感じます。

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