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【初任給引き上げ67.5%】「賃上げムード」の陰を考える

企業の7割近くが新卒「初任給引き上げ」平均引き上げ額は9,462円(帝国データバンク) – Yahoo!ニュース

帝国データバンクの調査では、2026年4月入社の新卒社員の初任給を「引き上げる」と回答した企業は67.5%、平均引き上げ額は9,462円でした。前年度より割合は下がったものの、依然として7割近い企業が初任給を上げる流れにあります。背景として、人材確保やインフレ対応、最低賃金上昇への対応、賃金テーブル全体のベースアップの波が初任給へ波及したことが示されています。

「67.5%」は全体平均であって零細企業の実態ではない

この報道を賃上げが広がっている証拠として受け取るのは危険だと思います。同じ調査でも規模別に見ると景色が変わります。大企業・中小企業が6割台後半で並ぶ一方、小規模企業は「引き上げる」が50.0%にとどまり、全体を大きく下回っています。つまり零細企業では「上げた」ではなく「上げていない」企業が半数いる、というのが同じデータの結論です。社労士として見れば、零細企業ほど価格転嫁が難しく、コストだけが先に上がり、人件費を恒常的に増やす余力がありません。だから「上げたい」ではなく「上げられない」が積み上がり、結果として小規模企業の実施率が50%に沈む。また上げたとしても1000円から3000円程度というのが実感です。

初任給を上げるほど、既存社員の不満と「逆転」の火種が増える

初任給は点ではなく線です。入口だけを上げれば、次に必ずぶつかるのが既存社員との賃金バランスです。調査でも「既存社員とのバランスを考えると難しい」「既存社員に大幅な賃上げを行える体力がない」という声が出ています。ここを甘く見ると、現場は壊れます。新卒だけが上がると、勤続数年の社員が相対的に報われない構図が生まれ、逆転現象の不公平感が蓄積します。零細企業ほど人員構成が薄く、誰か一人の不満が組織温度を下げやすい。だから「初任給だけ上げれば採れる」という短期戦術は、採用より先に定着を壊すリスクをはらみます。賃金テーブル、評価、育成、そして既存社員への説明まで一体で設計できない企業ほど、入口の数字に手を出すほど苦しくなるように考えます。

賃上げの実感を削る社会保険料に4月からさらに上乗せが始まる

そして、ここからが賃上げの実感を根こそぎ奪う最大の問題です。給料が上がれば、社会保険料も上がります。従業員は「額面は上がったのに、手取りが増えない」と感じ、企業は「賃上げに加えて会社負担分も増える」ため、実質的な人件費増に苦しみます。この構造そのものが、賃上げを推進しながら賃上げ効果を削る矛盾です。しかも2026年4月からは、医療保険料とあわせて「子ども・子育て支援金」の拠出が始まります。政府資料では「令和8年4月保険料(5月に給与天引き)より」開始し、医療保険とあわせて徴収する仕組みであることが明示されています。初任給を9,462円上げたという入口の数字が報道される一方で、現場では社会保険料の増加と、支援金の上乗せという「控除の増加」が同時に走ります。これは従業員の可処分所得の伸びを抑え、企業の総人件費を押し上げます。賃上げを叫びながら控除を厚くするのは、政策として整合的とは言い難い。少なくとも、賃上げの成果を語るなら「手取りがどうなったか」「企業負担がどう増えたか」までセットで語らなければ、現場感覚との乖離は広がるだけのように感じます。

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