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「リベンジ退職」と黒字リストラを短絡的に結びつける危うさ

若い世代だけでなく40代・50代も「リベンジ退職」 引き金は「黒字リストラ」か? #エキスパートトピ(横山信弘) – エキスパート – Yahoo!ニュース

社労士から見た労務理解のズレ

「黒字リストラが中高年のリベンジ退職を招く」という趣旨の論調を目にすると、率直に言って労務管理の現実との距離を感じる。企業の人員施策と社員の離職行動は確かに影響し合うが、それを感情的な仕返しという言葉で単純化すると、本来検討すべき労務上の論点が見えなくなる。特に気になるのは、企業の早期・希望退職制度を、あたかも社員に対する不当な処遇の延長として描いている点だ。実務において希望退職は整理解雇とはまったく異なる。制度設計の目的は強制的な排除ではなく、人員構成の調整と円滑な雇用移動の実現にある。募集要件、割増退職金、再就職支援、応募の自由といった要素が整備されていれば、それは労務管理上むしろ紛争を避けるためのソフトな手段として位置づけられる。黒字企業が人員調整を行うことも珍しい話ではない。事業ポートフォリオの転換、デジタル化投資への資源配分、年齢構成の歪みの是正など、将来の競争力維持を目的とした施策は黒字局面でこそ実施されやすい。これを「黒字なのに人を減らす」という感情的な違和感だけで語ると、企業側の合理性がすべて不当性に読み替えられてしまう。社労士の立場から見ると、問題の本質は黒字か赤字かではなく、制度の納得性と説明過程にある。対象範囲の設定理由、応募しなかった社員の処遇、評価制度との整合性、将来の配置方針といった点が曖昧であれば、不信感が生まれるのは当然だ。しかしそれはリベンジ感情というより、雇用契約に対する予見可能性の欠如への不安である。ここを取り違えると、離職の理由分析そのものが歪んでしまう。

社員の離職を「怒り」で説明することの労務的な危険性

もう一つの違和感は、希望退職や中高年の転職を「怒り」や「仕返し」という心理で説明しようとする点だ。労務実務では、離職理由は極めて多層的に形成される。将来の評価見通し、賃金カーブの頭打ち、配置転換リスク、役割期待の変化、家庭事情や健康問題などが複雑に絡み合う。とりわけミドル・シニア層の場合、合理的なキャリア判断として制度を活用するケースは決して少なくない。これをリベンジという語で括ると、本人の主体的な意思決定が矮小化されるだけでなく、企業側の課題認識も誤る恐れがある。離職を感情問題として処理してしまうと、本来検証すべき評価制度の透明性、キャリア形成支援の不足、役割再設計の遅れといった構造的論点に目が向かなくなるからだ。結果として、表面的なコミュニケーション強化や1on1の頻度といった対症療法に議論が流れやすい。社労士として現場を見ると、早期退職制度が組織不信を生むかどうかは、制度そのものより「残る社員へのメッセージ」で決まることが多い。応募者だけでなく非応募者の将来像が曖昧であれば、組織の心理的安全性は大きく揺らぐ。逆に、事業戦略と人材配置の方向性が一貫して示されていれば、制度利用者の離職は必ずしもネガティブな感情を伴わない。この違いは労務管理の成熟度そのものであり、単純な感情論では捉えきれない。結局のところ、「黒字リストラがリベンジ退職を招く」という整理は、労務管理の視点から見るとかなり粗い。問題は企業の業績ではなく、雇用関係の予測可能性と納得形成のプロセスにある。離職を感情的な物語で説明するのではなく、制度設計と説明責任、そしてキャリア移行支援の質という実務的論点で捉えなければ、本質的な改善にはつながらないだろう。

東京虎ノ門・仙台の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ

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