金融所得、保険料算定に反映へ 支払い能力ある高齢者の負担増 政府・与党(時事通信) – Yahoo!ニュース
国民健康保険だけが狙い撃ちされる不公平な制度改正
政府・与党が、医療や介護の保険料に株式配当などの金融所得を反映させる方向性を示した。表向きには「応能負担を進め、公平性を高める」というもっともらしい理由が掲げられているが、その裏側では、国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険といった自治体が運営する制度だけが対象にされている。そして、企業に勤める会社員や公務員をカバーする健康保険組合や協会けんぽ、共済組合には、金融所得を反映させる議論がまったく及んでいない。これが最大の問題であり、制度全体の公平性を大きく揺るがしている。
金融所得の捕捉強化が「国保サイド」にだけ向く構造の危うさ
国民健康保険や後期高齢者医療は、市区町村や広域連合が住民税の所得情報をもとに保険料を決定している。金融所得についても、確定申告をすれば市区町村へ情報が渡り、保険料に反映される仕組みがある。しかし、源泉徴収だけで確定申告をしない場合には、金融所得が存在しないものとして扱われ、保険料にも窓口負担にも影響しない。この仕組みを悪用しているわけではないのに、手続きの選択だけで負担が大きく変わるという不公平が生じていたことは確かだ。
ただ、だからといって国民健康保険や高齢者医療制度だけを対象に、金融所得を丸ごと捕捉しようとする今回の議論には無理がある。本来なら、企業健保も含むすべての医療保険制度で金融所得をどう扱うか統一的に検討すべきなのに、実際の政策議論では「国保グループだけを徹底的に可視化する」という方向に偏って進んでいる。これでは“制度の歪みを正す”のではなく、取りやすいところから取りに行くだけの改正になってしまう。
企業健保の加入者は金融所得があっても保険料が上がらない現実
現在の企業健保では、標準報酬月額(給与)と賞与額を基準に保険料が決められる。どれほど多くの金融所得があっても、保険料には一切反映されない。これは長年続いてきた仕組みだが、金融所得を保険料に反映させるという考え方が本当に正しいなら、企業健保も同じく制度の見直しが必要なはずである。
ところが、今回の議論では企業健保の側にはほとんどメスが入っていない。金融所得を多く持つ会社員や公務員も確実に存在するにもかかわらず、彼らは給与だけで保険料が計算され、金融所得は“なくてもよいもの”として扱われる。制度全体で見れば、これは明らかに偏った設計と言える。
「応能負担」の名のもとに国保と高齢者だけが犠牲になる懸念
支払い能力に応じた負担を求めるという方針は一見合理的であるが、実際に狙われているのは主に高齢者と国保加入者である。政治的な抵抗が小さく、制度変更もしやすい層にだけ負担を押し付けようという本音が透けて見える。企業健保にメスを入れることは財界や組合の反発を呼ぶため、政治的ハードルが高い。だからこそ、国保側だけを対象にした改革が先行しているのだろう。しかし、本来は制度間の不公平を是正する方向に向かうべきなのに、その議論は置き去りにされたままである。
そして情報連携の負担も国保サイドだけに集中する
金融所得を確実に捕捉するためには、証券会社と市区町村の間で情報連携を行う新しいシステムが必要になる。全国の自治体のシステム改修は膨大なコストと労力を伴い、情報管理の責任も重くなる。一方で企業健保は従来の「給与と賞与ベース」で保険料計算を行い続ければよく、金融所得の管理に関わる必要がない。制度運営面でも国保側に負担が集中する構造ができあがる。
まとめ:公平性を語るなら、制度全体を見直すべきではないか
金融所得を保険料に反映させるという議論自体は否定しないが、国民健康保険や高齢者医療だけを対象にするのはあまりにも不公平である。企業健保では金融所得が保険料に影響しないまま、国保グループだけが丸裸にされ保険料が上がるという構造は、制度の公平性を損なうだけでなく、「国保は狙われる側」という印象を強めるだけだ。
本来の公平性を目指すなら、国保・企業健保・共済組合の全てで所得の扱いを統一する議論が必要だ。制度の違いを理由に片方だけ負担を増やすやり方では国民の納得感を得ることはできず、むしろ制度への不信と不満を広げるだけである。今回の議論は、医療制度を持続させる本質的な改革とは程遠く、政治的に反発の少ない層にだけ負担を押し付ける方向に偏っていると言わざるを得ない。



