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診療報酬改定で初診料・再診料・入院基本料が引き上げへ

初診料・再診料・入院基本料を引き上げへ、診療報酬改定の骨子案了承…医療機関の経営安定化図る

厚生労働省は、2026年度の診療報酬改定において、初診料、再診料、入院基本料を引き上げる方針を示しました。この骨子案は、中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問され、了承されています。今回の改定は、医療現場の実感と極めて整合的です。物価高、人件費上昇、採用難という三重苦の中で、医療機関の経営が限界に近づいていることを、制度として正面から認めた内容だからです。


なぜ「基本料」を引き上げるのか

診療報酬の中でも、初診料・再診料・入院基本料は、医療行為の内容以前に「医療提供体制そのもの」を評価する報酬です。これらが十分でなければ、どれだけ高度な医療を提供しようとしても、経営は成り立ちません。これまでの改定では、加算や特定評価が中心となり、現場では算定要件の複雑さや人員配置の厳しさから、実際には取れない報酬が多いという問題がありました。今回、あえて基本料を引き上げるという判断がなされたことは、医療機関の構造的な収支悪化を国が明確に認識した結果だといえます。特に入院基本料について、診療所よりも病院を手厚くする方向性が示されている点は、入院医療を担う病院の経営が、すでに限界水準に達しているという現状認識の表れだと思っています。


改定率3.09%が意味するもの

今回の診療報酬改定では、2026年度・2027年度の2年間平均で3.09%のプラス改定が決まっています。この数字は一見すると控えめに見えるかもしれませんが、診療報酬という公定価格の性質を踏まえれば、決して小さな改定ではありません。物価高への対応として基本料を引き上げるだけでなく、今後の物価上昇を見据えて、さらに上乗せする仕組みを設けるとされています。単年度対応では追いつかないという前提に立った制度設計であり、医療機関のコスト構造が恒常的に変化していることを前提にしています。さらに注目すべきは賃上げ対応です。初診料、再診料、入院基本料への上乗せによって、看護師やリハビリ職など幅広い医療職で年3.5%、看護補助者や事務職員では年5.7%のベースアップを実現するとされています。これまで賃上げの恩恵が届きにくかった職種にも、明確に光を当てた内容ではないでしょうか。


社労士の視点で見る最大のポイント

ここで強調しておかなければならないのは、診療報酬が引き上げられたからといって、賃上げが自動的に実現するわけではないという点です。診療報酬はあくまで原資であり、それをどのように人件費として配分するかは、各医療機関の人事・賃金制度の設計次第です。現場ではすでに、最低賃金の引き上げに引きずられる形で初任給が上がり、既存職員との賃金バランスが崩れています。採用対策として場当たり的に賃上げを行った結果、数年後に人件費率が耐えられない水準に達するケースも少なくありません。診療報酬改定を機に賃上げを行うのであれば、評価制度、役割分担、将来の人件費負担を見据えた設計とセットで考えなければ、経営の安定化にはつながりません。賃上げだけを先行させることは、問題を先送りしているにすぎないのです。


経営安定化の本質は「制度をどう使うか」

今回の診療報酬改定は、医療機関にとって確かに追い風です。しかし同時に、「人件費を抑えて経営を維持する時代は終わった」という強いメッセージでもあります。診療報酬、賃金、労働時間、配置基準は相互に密接に連動しています。どれか一つだけを切り離して考えることはできません。社労士の立場から見ると、今後安定して経営を続けられる医療機関は、制度改定を単なるニュースとして受け流すのではなく、自院の賃金制度や人事制度を見直す契機として活用できるかどうかで、明確に分かれていくと感じます。診療報酬改定は万能薬ではありません。しかし、制度を正しく理解し、人事・労務の設計に落とし込めた医療機関にとっては、確実に次の一手を打つ材料になると考えています。

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