政府は、介護保険サービス事業者に支払われる介護報酬について、2026年度に限った臨時改定として2.03%の引き上げを行う方針を固めました。本件は読売新聞オンラインなどでも報じられており、「前回を上回る引き上げ幅」「前倒し改定」という言葉だけを見ると、大幅な改善のようにも映ります。しかし、今回の改定の中身を冷静に見ていくと、その実態はかなり限定的である点には注意が必要です。
今回の改定は「単年度・処遇改善加算のみ」
今回の介護報酬改定は、2027年度に予定されている定期改定の前に、2026年度の単年度分のみを見直すものです。さらに重要なのは、改定対象が「介護職員等処遇改善加算」に限定されている点です。基本報酬や加算体系全体が見直されるわけではなく、あくまで「人件費に充てるための加算部分」だけが調整されます。この意味では、「+2.03%」という数字が与える印象ほど、事業所の経営全体が楽になるわけではないというのが実務的な評価になります。
それでも「思い切った改定」と言える理由
一方で、今回の改定を単なる限定的な措置として過小評価するのも適切ではありません。改定幅そのものを見ると、過去の介護報酬改定と比較しても、かなり踏み込んだ水準であることは間違いありません。原則3年に1度という改定ルールを崩し、処遇改善に限ってとはいえ前倒しで実施する。
この判断からは、政府が「介護職員の賃上げ」を待ったなしの課題として捉えていることが、はっきりと読み取れます。
介護職以外にも波及を狙う設計へ
今回の介護職員等処遇改善加算の見直しで、ひとつ注目すべき点があります。それは、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、いわゆる直接介護職ではない職種についても、賃上げ効果を狙った設計になっている点です。これまで処遇改善の議論では、現場介護職に焦点が当たりがちでしたが、支援・調整を担う職種の処遇も含めて底上げしなければ、人材流出は止まらないという認識が、制度設計にも反映され始めています。
全産業平均との差が示す、厳しい現実
2024年時点での全産業平均(賞与込み)の月給は約36.6万円とされています。これに対して、介護職の平均月給は約30.3万円。その差は8.3万円にもなります。これまで繰り返し処遇改善が行われてきたとはいえ、依然としてこの差は大きく、結果として介護分野から他産業への人材流出が続いているのが現実です。今回の改定をきっかけに、正社員だけでなく、パート・派遣といった多様な雇用形態で働く方々の処遇改善が実感を伴って進むかが、今後の重要なポイントになります。
社労士の視点から
今回の改定は、事業所にとって「何もしなくても賃金が上がる」制度ではありません。介護職員等処遇改善加算を確実に算定・取得し、その原資を職員に適切に還元することが前提となります。加算の取りこぼしがあれば、制度の趣旨が現場に届かないばかりか、職員との賃金格差・不公平感を拡大させるリスクすらあります。今回の臨時改定は、単なる一時的措置ではなく、「人材確保を前提とした経営・労務管理へ舵を切れるかどうか」を問うメッセージと受け止めるべきでしょう。



