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介護職員の月額最大1万9,000円賃上げへ|2026年処遇改善の本質と限界を社労士が読み解く

政府は、介護職員および障害福祉事業所で働く職員の給与を、2026年度に月額最大1万9,000円引き上げる方針を固めました。実施は2026年6月からで、財源確保のため、介護分野の報酬を2.03%、障害福祉分野を1.84%、いずれも臨時で引き上げる方向です。賃金水準が全産業平均より低い介護・福祉分野の人手不足を緩和する狙いですが、この水準の賃上げが人材確保につながるかどうかは、不透明と言わざるを得ません。


月額1万9,000円の引き上げでも埋まらない賃金格差

介護職員の賃金水準は、構造的に低い状態が続いています。2024年時点で、賞与込み・役職者を除いた平均月給を比較すると、介護職と全産業平均との差は約8万円に達しています。一方、政府の賃上げ要請や賃上げ促進税制の影響を受け、他産業では急速に賃上げが進んでいます。そのため、今回の処遇改善が実施されたとしても、相対的な賃金格差はなお大きく残ると考えられます。賃金は人材確保の重要な要素であることは間違いありません。しかし、月額最大1万9,000円の引き上げだけで、慢性的な人手不足が大きく改善するとは考えにくいのが実情です。


海外事例に見る「本気度」の違い

この点を考えるうえで参考になるのが、オーストラリアの事例です。オーストラリアでは2023年、長年低水準にとどまっていた介護職の最低賃金を一気に約15%引き上げました。その結果、介護職を志す人が急増し、人手不足の解消につながったとされています。日本の今回の対応は、財政制約を踏まえた現実的な判断ではあるものの、海外の大胆な賃上げ政策と比べると、人材確保に対するインパクトは限定的と言わざるを得ません。


今回の処遇改善加算見直しで見逃せない2つの変化

今回の高齢者介護分野における処遇改善加算の見直しは、賃上げ額そのもの以上に、制度の方向性を示す重要なポイントを含んでいます。

対象職種・サービスの拡大

1つ目は、居宅介護支援(ケアマネジャー)や訪問看護など、これまで処遇改善の直接的な対象外だった職種・サービスが加算の対象に含まれる点です。
現場を支える専門職でありながら、処遇改善が及びにくかった領域に光が当たることになり、人材の偏在是正という意味では前向きな見直しと評価できます。

DX・生産性向上を前提とする処遇改善

2つ目、そして最も重要なのが、処遇改善加算の取得要件にICT・DX化、生産性向上への取り組みが組み込まれた点です。ケアプランデータ連携システムの活用や、生産性向上推進体制加算の取得などが要件とされる方向で検討されており、これは単なる事務要件の追加ではありません。ここには、「賃上げは、業務の効率化・生産性向上とセットで進めるものだ」という、政府の明確なメッセージが込められていると考えられます。


社労士の専門家視点|処遇改善は“経営課題”の時代へ

社労士の立場から見ると、今回の見直しは、処遇改善加算を「取れるかどうか」の問題として捉える段階を超えています。今後は、賃金原資の確保、賃金配分のルール、人事評価制度との整合性、DX投資とのバランスなどを含め、処遇改善そのものが経営課題になります。形式的に要件を満たすだけのDXでは、現場の負担は軽減されません。実務が本当に楽になり、人が定着する仕組みになっているかどうかが、今後はより厳しく問われることになるでしょう。


現場の視点|賃上げだけでは人は定着しない

介護現場では、「賃金が上がるのはありがたいが、それだけでは続けられない」という声が根強くあります。人手不足の本質は、業務量に対して人が足りないこと、記録や事務作業に時間を取られ、利用者対応に集中できないことなど、働き方そのものの問題にあります。今回の処遇改善見直しが評価できるのは、こうした構造的課題に対し、DX・生産性向上を明確に位置づけた点です。賃上げと同時に働き方が変わらなければ、人材確保も定着も実現しません。


まとめ|2026年処遇改善は介護経営の分岐点

2026年6月から予定されている今回の処遇改善は、金額面だけを見れば十分とは言えません。しかし、対象職種の拡大とDX要件の明確化という点では、これまでとは異なる方向性を示しています。なお、これらの内容は、厚生労働大臣と財務大臣の折衝、その後に開催される社会保障審議会・介護給付費分科会での議論を経て、正式に確定することになります。事業者としては、決定を待ってから対応するのではなく、今の段階から賃金設計、業務改善、DXを一体で考えることが重要です。今回の処遇改善は、介護経営の姿勢そのものが問われる分岐点だと言えるでしょう。

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