「あけおめ退職」は福利厚生では防げない
年末年始の長期休暇を経て、「仕事を辞めたい」と感じたことはないでしょうか。マイナビの調査では、正社員の約3割が年末年始休暇を通じて「今の会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しています。さらに、長期休暇の中でも最も退職者が多いのが年末年始休暇であることも明らかになっています。
これは企業にとって突発的な問題ではなく、構造的な課題です。今回は社会保険労務士の視点から、この現象を整理したいと思います。
年末年始休暇が「最も退職が多い」理由
中途採用担当者への調査では、退職者が最も多かった長期休暇として年末年始が最多となり、ゴールデンウィークや夏季休暇を上回りました。年末年始は、単に休みが長いからではありません。一年の区切りであり、生活と仕事の両方を振り返る「節目」であることが大きく影響しています。この時期は、社員にとって「来年もこの働き方を続けるのか」を真剣に考えるタイミングになります。
辞めたくなるのは「仕事始め」ではなく「連休中」
調査結果で重要なのは、退職を意識するタイミングです。仕事を再開してからではなく、連休中に辞めたいと感じる人の方が多いという点は見逃せません。普段は、業務に追われ、自分の働き方を考える余裕がありません。ところが年末年始は、仕事から物理的・心理的に距離が生まれます。その結果、これまで押し込めていた疑問が表に出てきます。例えば「この業務量は普通なのか」「報酬は見合っているのか」「この状態を何年続けられるのか」など、連休は退職願望を生むのではなく、すでにあった違和感を可視化されてしまうと考えます。
家族との時間が退職を現実的な選択肢に変える
年末年始が他の連休と決定的に違うのは、家族と過ごす時間が増えることです。久しぶりに会う親や親戚、友人との会話の中で、自分の働き方を客観的に見る機会が生まれます。疲れ切った様子を見た家族からの心配や率直な意見は、「辞める」という選択肢を現実的なものにします。これは家族が退職を勧めているわけではありません。会社の内側にいると見えなくなる違和感を、外から言語化しているのです。
「おせち補助」は退職防止の本質ではない
退職防止策として「おせち補助制度」が紹介されることがあります。家族と囲む食卓を通じて会社への印象が良くなった、という事例です。しかし、社会保険労務士の立場から見ると、これを本質的な退職防止策と評価することには慎重であるべきです。年末年始に辞めたいと感じる理由として多いのは、
業務量、賃金・賞与、休みやすさ、上司の配慮といった、日常の労働条件やマネジメントそのものです。おせち補助は、これらを改善するものではありません。一時的に気分が良くなっても、負荷や評価が変わらなければ、違和感は残ります。また、この施策が機能している企業は、もともと職場環境の土台が整っているケースがほとんどです。疲弊した職場で同じことをしても、同様の効果は期待できません。
企業が向き合うべき「あけおめ退職」対策の本質
調査結果が示しているのは、社員が求めているのが派手な福利厚生ではないという事実です。必要なのは、業務負担が適正であること評価や報酬に納得感があること休み明けにいきなり全力を求められない配慮があることなどです。問われているのは「連休中に何を配るか」ではなく、年末までに、どれだけ働き方やエンゲージメントを整えてきたかだと考えます。
社会保険労務士としての結論
年末年始に退職が増えるのは偶然ではありません。仕事から距離を置き、家族と向き合い、自分の人生を考える時間が生まれるからです。「あけおめ退職」を防ぐ答えは、福利厚生の工夫ではありません。日常の労働条件、業務設計、マネジメントの積み重ねです。年明けに人が辞めるかどうかは、年末年始の問題ではなく、その会社が一年を通じてどんな働き方をさせてきたかの結果だと考えます。
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