社労士が見る大企業統計と中小企業の現実

「平均95万円超」という数字が示していない前提条件
厚生労働省が発表した2025年末の冬のボーナス平均妥結額は95万7,184円と、統計開始以来の最高額を更新しました。2年連続の最高更新という見出しだけを見ると、日本全体で賃上げが順調に進み、労働者の生活も改善しているように見えます。しかし、この数字が示しているのは「日本の企業全体」ではありません。調査対象は資本金10億円以上、従業員1,000人以上、労働組合のある企業に限られています。つまり、価格交渉力があり、業績回復の恩恵を受けやすい大企業層だけを切り取った統計です。この前提を外したまま平均額だけが語られると、多くの中小企業にとっては現実感のない数字になります。
10名以下の企業で見えているリアルな賞与水準
社労士として日々接している従業員10名以下の企業では、賞与は業績好調の象徴ではなく、経営を圧迫しない範囲で何とか捻出するものという位置づけです。実感として多いのは、年間で20万から40万円程度にとどまるケースです。賞与そのものが存在しない企業も決して少なくありません。黒字で比較的安定している企業であっても、40万から60万円程度が事実上の上限になることがほとんどです。一般に言われる「従業員10〜99人規模の平均賞与は約60万円」という水準ですら、10名以下の零細企業にとっては高く感じられるのが現実です。ここに、大企業統計との明確な断絶があります。
中小企業が賞与を増やせない本当の理由
中小企業が賞与を出せない、あるいは増やせない理由は、経営努力の不足ではありません。原材料費やエネルギーコストは上昇し続け、人手不足の中で月例賃金の引き上げも求められています。社会保険料の事業主負担も重く、利益は簡単に積み上がりません。それでも価格転嫁は思うように進まず、利益率は圧迫されたままです。この状況で賞与原資を増やすことは、多くの中小企業にとって現実的な選択肢ではありません。賞与を出せるかどうかは、努力や意欲の問題ではなく、構造的な制約の問題です。
社労士として伝えたい視点
今回の「冬のボーナス最高更新」というニュースは事実ですが、日本の雇用の大半を支えている中小・零細企業の姿を映してはいません。数字のインパクトだけが先行すると、現場とのギャップはますます広がります。社労士の立場から見ると、今後本当に必要なのは、一律の賃上げ論ではなく、中小企業でも無理なく続けられる賃金設計や評価制度です。固定費を過度に増やさず、従業員の納得感をどう確保するかという視点が欠かせません。華やかな統計の裏側にある「出したくても出せない」という現場の声に、もっと目が向けられるべきだと強く感じます。



