
社労士が見る「にゃんともワンだふる職場」の落とし穴
テレビ番組などで紹介される「ペット同伴勤務」は、職場が和む、会話が増える、採用に効くといった明るい側面ばかりが強調されがちです。実際、富士通のような大手企業の事例もあり、制度として一定の市民権を得つつあるように見えます。しかし社労士の視点で見ると、この制度は福利厚生という言葉で軽く括れるものではありません。むしろ、導入の仕方を誤れば、労務トラブルを内包したまま走り出す危うい仕組みです。
成功事例は「再現性が低い」
番組で紹介されていたファーレイ株式会社や株式会社バイオフィリアは、ペットの存在が企業文化や事業内容と密接に結びついています。顧客とのコミュニケーションが円滑になり、商品開発やブランディングにも直結するという点では合理性があります。重要なのは、これらの会社が「最初からペット同伴を前提とした環境と運用」を積み上げてきたという事実です。一方で、一般企業が同じ結果を期待して導入する場合、その前提条件は大きく異なります。業務内容がペットと無関係であるにもかかわらず、雰囲気づくりや話題性だけを理由に始めてしまうと、制度は途端に不安定になります。成功事例はあくまで例外であり、横展開できるモデルではないと感じます。
社労士が最も問題視する視点
ペット同伴勤務で最初に考えるべきなのは、「かわいいかどうか」でも「癒やされるかどうか」でもありません。労働環境として適切かどうかです。動物アレルギーを持つ従業員や、動物に強い恐怖感や不快感を覚える従業員がいる場合、会社には安全配慮義務や職場環境配慮義務が生じます。これは好みや相性の問題ではなく、法的な責任の問題です。さらに、明確なルールを設けないまま運用を始めると、業務中の事故や物損が発生した場合の責任の所在が曖昧になります。来客時のトラブル、清掃や世話を誰がどこまで業務として担うのか、ペット同伴者に支給する手当が賃金として扱われるのかといった点も、後から必ず問題になります。これらを事前に就業規則や社内規程に落とし込まない限り、「問題が起きたら考える」という姿勢は会社にとって極めて不利です。
社労士としての感想
ペット同伴勤務は、流行りの福利厚生でも、採用向けの演出でもありません。事業内容、従業員構成、来客の性質、労務管理体制を総合的に踏まえた上での経営判断です。ペットが好きな社員だけでなく、そうでない社員も含めて、安心して働ける環境を用意できるのか。その答えを制度として示せないのであれば、導入すべきではありません。社労士としては、「にゃんともワンだふる」な話題性よりも、後から揉めない仕組みを優先すべきだと考えます。可愛さで始めた制度ほど、冷静なルール設計がなければ、必ずしっぺ返しが来ると思っています。
仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ



