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平均月給「過去最高」は本当に明るいニュースか

平均月給34万600円で過去最高に 男女間賃金格差は最小 最高は“電気・ガス”44万4000円 厚労省調査(FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) – Yahoo!ニュース

2025年の平均月給が34万600円と過去最高を更新したというニュースは、一見すると賃上げの成果を示すポジティブな材料のように見えますが、実務の現場に身を置く社会保険労務士の立場からすれば、この数字をそのまま受け止めるのは極めて危険だと思います。むしろ、統計の「見せ方」と現場の実態との乖離が、より鮮明になったと評価すべきでしょう。今回の数値は「所定内給与額」であり、残業代や賞与を除いたベース賃金です。ここだけを切り取れば確かに上昇しています。しかし、企業実務において賃金とは「総支給額」だけでなく「可処分所得」、すなわち手取りで評価されるべきものです。この視点を欠いた議論は、現実から乖離した空論になるのではないでしょうか。

実質賃金・社会保険料・年齢格差

まず見逃してはならないのは、実質賃金が依然として低水準にとどまっている点です。物価上昇、とりわけエネルギー・食料品の価格上昇は生活に直撃しています。電気・ガス業の平均賃金が高水準である一方で、そのコストは他産業や家計に転嫁されている現実があります。つまり、一部産業の高賃金は、他の労働者の生活コスト増と表裏一体なのです。さらに深刻なのは社会保険料の上昇です。賃上げに連動して標準報酬月額が引き上げられれば、健康保険料・厚生年金保険料は確実に増加します。加えて、2026年からは子ども・子育て支援金の徴収も開始される予定であり、「賃上げが手取り増」という単純な構図は完全に崩れています。現場ではむしろ「昇給したのに手取りが減った」という声が増えているのが実態のように感じています。また、年齢別に見ると若年層の賃上げ率が高い一方で、50代は伸び悩み、場合によっては実質的に後退しています。いわゆる就職氷河期世代がここに重なります。企業は新卒・若手の確保には積極的に投資する一方で、中高年層の処遇改善には消極的です。この構造は偶然ではなく、人件費の最適化を図る企業側の合理的判断の結果であり、結果として世代間格差を固定化させています。

「平均値」という幻想と政策の限界

今回の報道で最も問題なのは、「平均値」があたかも労働者全体の実態を示しているかのように扱われている点です。平均値はごく一部の高所得層によって簡単に引き上げられます。特に電気・ガスや専門職といった高賃金産業の影響は大きく、多くの中小企業やサービス業の実態を覆い隠してしまいます。実務感覚としては、中央値や分布を見なければ実態は把握できません。さらに言えば、今回の賃上げは「企業の体力差」をそのまま反映した結果でもあります。大企業は賃上げ余力がある一方で、中小企業は価格転嫁が進まず、人件費だけが上昇する構造に苦しんでいます。この歪みは、単なる賃上げ政策では解決できません。むしろ無理な賃上げ圧力は、中小企業の収益悪化や雇用抑制につながるリスクすらあります。男女間賃金格差の縮小も同様に、表面的な改善に過ぎません。確かに女性の管理職比率上昇は評価すべきですが、それは一部企業の取り組みの成果であり、全体としての構造的格差が解消されたわけではありません。非正規比率の高さや職種分断の問題は依然として残っています。

本質は「賃上げ」ではなく「可処分所得の設計」

結局のところ、今問われるべきは「いくら支給するか」ではなく、「いくら手元に残るか」です。賃上げをしても、社会保険料や税負担で相殺されるのであれば、それは生活改善にはつながりません。平均月給が過去最高という事実自体は否定しません。しかし、それをもって「労働者の生活が改善している」と評価するのは、あまりにも現場感覚を欠いた見方のように考えます。「数字は上がっているが生活は楽になっていない」。この矛盾を直視しない限り、日本の賃金政策はいつまでも成功しているように見える失敗を繰り返すことになるのではないでしょうか。

仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ

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