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低賃金1000円超えの陰で問われる発効日の遅れと「最下位回避」の発想

最低賃金、全都道府県で1000円超え…雇用主ら配慮し改定額適用に遅れ・労働者「効果薄れる」と不満も(読売新聞オンライン) – Yahoo!ニュース

発効日の大幅なズレは事実だが背景には企業負担への配慮もある

2025年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1121円となり、初めて全都道府県で1000円を超えました。秋田県は951円から1031円へ80円引き上げられましたが、発効日は2026年3月31日で、全国で最も遅い適用でした。最も早い栃木県は2025年10月1日発効ですから、同じ年度改定でも半年の開きが生じています。厚生労働省の資料でも、2025年度は27府県が11月以降の発効、6県が2026年1月以降の発効となり、発効日に大きなばらつきが生じたこと自体が、制度上の論点として明示されています。最低賃金法9条2項は、最低賃金を定めるにあたり、労働者の生計費や賃金だけでなく、「通常の事業の賃金支払能力」を考慮するとしています。実際、2025年度の中央最低賃金審議会の公益委員見解でも、早期発効を求める考え方がある一方で、過去最高水準の引上げが続く中、賃金原資の確保や設備投資計画への対応に苦しむ中小企業・小規模事業者が増えていること、さらには年末に向けた就業調整の影響も踏まえ、発効日を地方審議会で十分に議論するよう求めています。つまり、発効の遅れには、少なくとも制度上は「企業が本当に対応できるのか」という現実的な問題意識がありました。

それでも「最下位回避」が透けて見えるのはなぜか

それでもなお、今回の改定が素直に評価されにくいのは、厚生労働省自身が、2025年度の地方審議会の審議結果を踏まえた論点として、「近隣県等との過度な競争意識や最下位争いによって、目安を大幅に上回る高い引上げが行われたのではないか」という疑義を正面から取り上げているからです。しかも同じ資料では、2025年度はCランク県を中心に、近隣の同ランク県の答申が出た後で審議を行うために、審議日程を後ろ倒しにする動きが一部で見られたとも整理されています。これはもう、単なる外野の感想ではなく、国が制度論として検討すべき問題として認識しているということです。

実際、2025年度は目安額を10円以上上回った県が11県にのぼり、秋田県も目安64円に対して16円上乗せの80円引上げでした。その結果、最終的には全都道府県が1000円超となりましたが、発効時期はそろっていません。ここに違和感があります。企業負担への配慮が必要なら、本筋は発効の先送りではなく、価格転嫁支援や業務改善支援などをどう厚くするかのはずです。ところが現実には、金額は強く引き上げる一方で、発効は県ごとに大きくずれた。この組み合わせは、「企業の実情に向き合った慎重な制度設計」というより、「少なくとも金額の見た目では最下位に残りたくない」という発想を疑わせます。そう断定まではできませんが、そう受け取られても仕方のない審議の流れだったとは言えるでしょう。最低賃金は、本来、県同士の競争のための数字ではありません。働く人の生活を守る制度であると同時に、企業が現実に支払える制度でなければ意味がありません。だから必要なのは、「労働者のためか、企業のためか」という雑な対立ではなく、引上げ額と発効日と支援策を一体で設計することです。厚生労働省もすでに、発効日の「合理的な範囲」があり得るのか、来年度の中央・地方審議会でどのような対応が望ましいのかを論点化しています。2025年度の最低賃金問題が突きつけたのは、金額の大きさそのものよりも、制度運用が「生活保障」と「企業の支払能力」をどう両立させるのか、その設計が追いついていないという事実ではないでしょうか。

仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ

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