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【宿直許可があっても安心できない】労災判決が医療現場に突きつけた現実

月100時間超残業で48歳医師が寝たきりに…東京地裁、労災不認定処分を取消「宿直は労働時間ではない」とした国の判断覆す(弁護士JPニュース) – Yahoo!ニュース

東京地裁は、都内の大学病院で勤務していた48歳の医師がくも膜下出血を発症した事案で、宿直時間の全体を労働時間と評価し、月100時間超の時間外労働があったとして、国の労災不認定処分を取り消しました。国は控訴せず、判決は確定しています。この判決が重いのは、単に「医師が大変だった」という話ではありません。裁判所は、深夜の呼び出し、死亡対応、カルテ作成、院外に出られない待機といった実態を見て、「労働からの解放が保障されていたとはいえない」と判断しました。つまり、宿直許可の有無や、病院側の形式的な整理ではなく、実際にどのような拘束があったのかを正面から見た案件と考えます。

宿直許可があっても実態が通常勤務なら労働時間になる

まず押さえたいのは、医療機関の宿日直許可は万能ではないということです。厚生労働省の通達では、医師等の宿日直について、通常勤務から完全に解放された後のものであり、宿日直中の業務も特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務に限られ、さらに宿直では夜間に十分な睡眠がとり得ることが求められています。さらに重要なのは、許可を受けていても、宿日直中に通常勤務と同じ態様の業務に従事することが稀にあるだけなら直ちに許可取消しにはならない一方、その時間については時間外労働の手続と割増賃金の支払いが必要とされている点です。逆に、応急患者対応、患者死亡への対応、出産対応など、通常勤務と同じ性質の業務が常態であれば、そもそも宿日直許可の対象ではないと厚労省は明示しています。今回はまさにそこが突かれた事案ではないでしょうか。記事によれば、当該医師は宿直中に看護師からPHSで呼び出され、患者急変対応や死亡診断書の作成、家族説明まで行っていました。しかも病院外に出ることはなく、いつ呼ばれるか分からない緊張状態が続いていた。こうした実態から裁判所は、待機そのものを使用者の指揮命令下の時間とみて、宿直全体を労働時間と評価しています。なお、医療法16条に基づき病院に医師を宿直させること自体に、労基署長の宿日直許可が必須というわけではありません。他方で、宿日直許可を受ければ、その許可の範囲で労働時間規制の適用除外になるため、多くの医療機関が取得を進めてきました。しかし厚労省自身、許可によって在院時間の一部が労働時間から外れることをもって、労働時間短縮や勤務環境改善が達成されたと捉えるべきではないと明言しています。

脳・心臓疾患の労災認定は「100時間超」だけで決まらない

社労士として実務上いちばん誤解が多いのは、「月100時間を超えたかどうかだけで決まる」という理解です。脳・心臓疾患の認定基準では、長期間の過重業務の評価期間は発症前おおむね6か月で、発症前1か月ないし6か月にわたり月45時間を超える時間外労働が認められない場合は関連性が弱いと評価されます。その一方で、発症前1か月でおおむね100時間、または発症前2か月ないし6か月にわたり月平均おおむね80時間を超える場合は、業務と発症との関連性が強いと評価されます。ただし、認定基準はそれだけでは終わりません。発症前おおむね1週間の「短期間の過重業務」も独立した判断枠組みとして置かれており、発症直前から前日までの特に過度の長時間労働や、1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働があれば、関連性が強いと評価し得るとされています。さらに、発症直前から前日までに極度の緊張や著しい作業環境変化などの「異常な出来事」があったかどうかも別枠で検討されます。ここで実務的に見逃せないのが、労働時間以外の負荷要因です。厚労省は、拘束時間の長い勤務、休憩・仮眠の状況、勤務間インターバルの短さ、不規則勤務、交替制勤務、深夜勤務などを評価要素として挙げています。そして、100時間や80時間の水準に届かなくても、それに近い時間外労働にこうした負荷要因が重なれば、総合判断で関連性が強いと評価できるとしています。だからこそ今回の判決は重いように感じます。宿直時間が丸ごと労働時間に入るなら、単に総時間が増えるだけではありません。深夜帯拘束、十分に眠れない仮眠、呼び出し待機、死亡対応という負荷要因まで一気に認定の土台に乗ってきます。病院側が「仮眠時間だから外したい」と考えていた部分が裁判所の目線ではむしろ過重性を裏づける事情になり得るのではないでしょうか。

医療機関が今すぐ見直すべきは許可の有無ではなく運用実態

この判決を受けて医療機関がやるべきことは、宿日直許可証の有無を確認して安心することではありません。実際に、誰が、どの時間帯に、どの程度呼び出され、どんな処置をし、どれだけ眠れず、どこまで院外離脱が制限されているのかを、勤務実態として洗い直すことです。厚労省FAQも、宿日直許可取得後であっても、実際に許可を受けた勤務態様で従事しているかを確認し、適切な労務管理を継続する必要があるとしています。社労士の現場感覚でいえば、ここで怖いのは労災だけではありません。宿日直が実態として通常勤務の延長になっているなら、未払割増賃金、36協定の運用不整合、労働時間把握の不備、監督署対応の失敗が連動して噴き出します。厚労省通達も、宿日直中に通常勤務と同態様の業務に従事した時間については、時間外労働の手続と割増賃金支払いが必要だと明記しています。労災認定の問題と賃金管理の問題は、現場では別々に起きるのではなく、同じ実態から同時に発火するのではないでしょうか。今回の判決が医療機関に突きつけたメッセージは明確です。宿日直許可は免罪符ではありません。形式上の許可、名目上の仮眠、紙の上の整理ではなく、実際に労働から解放されていたのかが問われます。医師の働き方改革が始まったいま、この視点を外した宿直運用は、労災でも賃金でも通用しにくくなると見ておくべきではないでしょうか。

宿直の運用は専門的な経験と知識のある仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズまでご相談下さい。

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