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新入社員の初日退職が増える時代【企業が本当に見直すべきこと】

退職する新入社員続出 初日に代行依頼殺到 「自分には向いてない」(テレビ朝日系(ANN)) – Yahoo!ニュース

新年度が始まるたびに、「入社したばかりの新入社員がすぐ辞めた」「退職代行を使われた」という話題が大きく取り上げられます。こうした報道が出ると、どうしても「最近の若者は我慢が足りない」という方向に議論が流れがちです。しかし、社労士の立場から見ると、問題の本質はそれほど単純ではありません。もちろん、入社初日や数日で「向いていない」と判断して辞めてしまうことには慎重であるべきです。仕事の適性は、わずか1日や2日で見極められるものではありません。他方で、企業側の説明不足や採用時の期待値調整の甘さが、早期離職を招いているケースがあるのも事実です。新卒の早期離職が増えているのであれば、それは若手本人だけの問題ではなく、採用の入口設計そのものに無理があるのではないかと考える必要があります。

早期離職の背景には企業側の「説明不足」がある

今回のような報道で特に見逃してはならないのは、入社前に聞いていた労働条件と、実際に働き始めてから分かった内容が違っていたというケースです。これは単なる相性の問題ではありません。労働条件は、採用時にきちんと明示されるべきものであり、使用者には労働契約の締結時に賃金や労働時間などの労働条件を明示する義務があります。また、明示された条件と実際の内容が異なる場合には、労働者は即時に労働契約を解除できるとされています。さらに、2024年4月からは、全ての労働者について就業場所・業務内容の変更の範囲の明示が必要となり、求職者に対する明示事項も追加されています。つまり、「思っていた仕事と違った」「聞いていた条件と違った」というトラブルは、法的にも軽く扱ってよい話ではありません。企業としては、求人票や労働条件通知書を形式的に出していれば足りる、という発想では不十分です。問題は、書いてあるかどうかだけではなく、応募者が実際にどう理解していたかです。休日数、配属先、残業の有無、業務内容、転勤や配置転換の可能性といった重要事項が、採用段階で曖昧なままになっていれば、入社後の不信感は一気に高まります。新卒社員にとって、最初の数日は「この会社は信じられるか」を判断する極めて重要な時期です。そこで条件相違が見つかれば、定着以前に信頼関係が壊れてしまいます。社労士として多くの現場を見ていると、早期離職が多い会社には共通点があります。採用時には仕事の魅力ばかりを強調し、厳しさや現実的な負荷、求める水準を十分に伝えていないのです。ところが、入社後に突然「うちはこういう会社だから」「社会人なら当たり前だ」と現実を突きつける。これではミスマッチが起きるのは当然です。早期離職は、本人の忍耐力不足だけでなく、企業側の採用設計や受入れ体制の未成熟さを映す鏡ではないでしょうか。

「向いていないからすぐ辞める」は慎重であるべき

もっとも、だからといって、少し違和感があっただけで即退職を勧めるべきだという話ではありません。仕事には慣れが必要ですし、最初は誰でも失敗します。新卒社員は、そもそも「働くこと」自体が初めてであり、初日の不安や緊張、できなさはある意味で当然です。その段階で「向いていない」と結論づけてしまうのは、あまりにも早計です。実務的に見ても、超早期離職はその後の転職活動で不利に働きやすいのが現実です。採用する側からすれば、「なぜそんなに早く辞めたのか」「またすぐ辞めるのではないか」という懸念を持つのは自然だからです。本人にとって合理的な自己防衛のつもりでも、職歴として残る以上、次の選考では説明を求められます。辞める自由は当然にありますが、辞めた後の不利益まで消えるわけではありません。だからこそ、本来は「辞めるか、残るか」の二択ではなく、その間にいくつかの段階が必要です。体調面に不安があるなら上司以外の相談先につなげる、業務が合わないなら指導方法や配置を見直す、条件面に疑問があるなら人事があらためて説明する。こうした調整の余地があるのに、本人も会社もそこに至る前に関係を切ってしまうケースが多すぎます。近年は退職代行が広く知られるようになり、「つらければすぐ離れる」という行動が選びやすくなりました。しかし、辞める手段が整ったことと、辞める判断が常に正しいことは別問題です。企業側もまた、「辞めるなら勝手に辞めればいい」と考えるべきではありません。新卒の早期離職は、採用コストの損失だけでは終わりません。職場の雰囲気を悪化させ、残った社員に不安を与え、採用ブランドも傷つけます。本当に見るべきなのは、辞めた本人の資質ではなく、なぜ入社直後に「この会社では続けられない」と感じさせてしまったのかという点です。新卒の早期離職を「最近の若者は弱い」で片づけるのは簡単です。しかし、社労士としては、そこに思考停止があると感じます。違法な労働条件やハラスメントがあるなら、早く離れる判断はむしろ健全です。一方で、単なる不安や戸惑いの段階で即退職に向かってしまうのであれば、本人にも会社にも、踏みとどまるための知識や技術が足りていないのかもしれません。これからの企業に求められるのは、採用時に良いことだけを見せることではなく、入社後の現実を誠実に伝え、それでも働ける関係を作ることです。そして新卒本人にとっても、最初の違和感だけで人生の方向を決めてしまわない冷静さが必要です。早期離職の増加は、若者の問題というより、採用と定着の仕組み全体の問題として捉えるべきではないでしょうか。

仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズ

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