働き方改革・ジョブ型雇用から考える現実的な課題
「直ちに最低賃金一律1500円実現を」石破首相“5年以内に”の発表に対し、労組が「遅すぎる」と会見で訴え (弁護士JPニュース) – Yahoo!ニュース

最近、労働団体から「最低賃金を全国一律1500円へ早急に引き上げるべきだ」という声が高まっています。ですが、本当に急激な「全国一律1500円」は日本社会にとって適切なのでしょうか?
本記事では、社労士の専門的な立場から「最低賃金1500円」に潜む問題点を、「ジョブ型雇用」「年功序列・終身雇用」「解雇規制」「地域経済」の観点から解説します。
最低賃金1500円が叫ばれる背景
2024年度の最低賃金の全国平均は【時給1055円】。これに対し、一部団体は「人間らしい生活のためには最低でも1500円、将来的には1700円以上が必要」と訴えています。しかし、この「最低時給1500円論」は理想に偏りすぎており、現実の雇用制度や経済原理と乖離しているように考えます。
ジョブ型雇用との矛盾する発想
いま企業では、「年功序列」から「ジョブ型雇用」への転換が進んでいます。ジョブ型は、仕事内容や責任の重さに応じて賃金を決定する方式であり、一律の最低賃金設定は、この方向性に逆行します。仕事内容にかかわらず同一の賃金が求められれば、軽作業や補助業務の雇用が削減される恐れもあります。
年功序列・終身雇用の見直しが先決
「主婦パートを前提とした低賃金設計だったから1500円に引き上げるべきだ」という意見もありますが、それ以上に重要なのは、日本独特の年功序列賃金の是正です。若手の処遇が低く抑えられたまま、制度だけを修正しても持続可能な雇用体系にはなりません。
解雇規制とのセットでなければ雇用が崩壊するリスク
日本は解雇が難しい国です。一度採用したら、たとえ業績が悪化しても簡単に人員整理できません。その中で賃金を1500円に引き上げることは、企業にとって「高コストで調整できない人材」を抱えるリスクを高めます。結果として、非正規雇用や若年層の採用を敬遠する企業が増える可能性があります。
地方経済への深刻な影響
急激な1500円の最低賃金は、地方の中小企業にとっては致命的なインパクトを持ちます。秋田県や高知県など、最低賃金が950円前後の地域でいきなり1500円が求められたら、雇用の維持が不可能な事業者も多数出てくるでしょう。「物価は全国で同じ」ではなく、「支払能力」が地域で大きく異なるのが実情です。
段階的な制度設計と地域支援が必要
最低賃金の引き上げ自体には一定の意義がありますが、以下のような総合的な政策設計がなければ、単なる理想論に終わります。
- ジョブ型雇用の普及と職務評価制度の整備
- 年功序列からの脱却と賃金の透明化
- 解雇・雇用調整制度の見直しと柔軟化
- 地方への財政的支援と補助金の拡充
「働いていれば生活できる」社会は理想です。しかし、その実現には最低賃金引き上げ“だけ”では不十分であり、制度の土台からの見直しが必要です。
社労士の視点で見る最低賃金の“現実”
最低賃金1500円をただ「正義」とするのではなく、制度の背景、企業の現実、働き方の多様化を踏まえて議論すべき時代と考えます。賃上げを決して否定している訳ではありません。合理的な賃上げや、社会全体として考えた上での賃上げが必要と考えています。社会保険労務士として、多くの企業から賃上げの悩みを現場で相談される立場として、企業にとっても、ひいてはそこで働く労働者にとっても透明性があり、またバランスのある賃金制度を提案できればと日々考えています。



