2026年度の診療報酬改定に向けた議論が進む中、12月10日の中医協総会では、診療側と支払側の考え方の違いが改めて鮮明になりました。医療機関の経営に関わる方が「今、何を押さえておくべきか」を中心に、主要な論点を整理します。
診療側と支払側の視点の違い
今回の議論で最も象徴的だったのは、両者が同じ「医療経済実態調査」を見て、まったく異なる結論を導いている点です。診療側は、病院の約7割、診療所の約4割が赤字であることを「異常事態」と捉えています。人件費や物価の高騰が続く中で、医療従事者の給与が全産業平均より低いことも課題視し、こうした状況は医療機関の努力だけでは吸収できないと強調します。そのため、薬価引き下げによる「付け替え」ではなく、診療報酬自体を大幅に引き上げる真水の財源が必要だと主張しています。一方、支払側は保険者財政の逼迫を重視しています。現役世代の保険料負担は限界に達しており、基本診療料を一律に引き上げることには慎重です。特に、クリニックや薬局の経営が比較的安定している点を踏まえ、「必要な領域に重点配分すべき」という考え方を示し、財源の再配分にも言及しています。両者が求める方向は大きく異なっており、診療側は底上げ、支払側はメリハリを強調する構図です。
医療機関の下支えと保険財政の維持の両立
政府は、物価・人件費の上昇で医療機関の経営が厳しいことには一定の理解を示しています。しかし同時に、財源には限りがあるため、無制限のプラス改定は現実的ではありません。このため、政府の基本的な方向性は「必要な部分にはしっかり財源を投入しつつ、全体の増加は抑制する」というバランス型のアプローチになる見込みです。病院については一定の手当が期待されますが、診療所や薬局については、機能や地域での役割がより明確に評価されるかどうかが、改定における扱いを左右する可能性があります。
補正予算の位置づけ
2025年度補正予算では、医療分野に対して賃上げ・物価高騰への対策として大規模な財源が投入されました。しかし、補正予算はあくまで「一時的」な措置です。医療機関は一度上げた賃金を簡単に下げることはできないため、賃上げを継続できるだけの財源が、2026年度診療報酬にどれだけ組み込まれるかが最重要テーマとなります。診療側が「真水のプラス改定」を強く求めている背景には、この問題があります。
医療DX・働き方改革に関する評価
働き方改革を支える加算(地域医療体制確保加算や医師事務作業補助体制加算)については、診療側から「現場で効果が出ているため継続と拡充が必要」との意見が多く出ています。また、医療DXについても、導入コストだけでなく、維持費やサイバーセキュリティ対策など、継続的に発生する費用をどう評価するかが論点となっています。医療機関にとっては、DX投資の持続可能性が改定の方向性に左右されるため、注視すべきポイントです。
薬価・医療材料の動向
薬価と医療材料については、引き続き実勢価格との乖離解消や、費用対効果評価の活用による価格調整が進む見通しです。とくに高額薬剤は、費用対効果に応じて加算が大きく見直されるケースが出てきており、薬剤コストの大きい領域では経営にも影響が及ぶ可能性があります。
今後の焦点
中医協では、今後、公益委員が両者の主張を踏まえて素案を作成し、それに基づいて「2026年度改定に向けた意見」が取りまとめられる予定です。その後、厚労相と財務相による年末の大臣折衝で改定率が決定します。2026年度改定は、単なる「増減」ではなく、どの領域にどれだけ財源を振り向けるか、という配分の思想が強く現れる改定になる見通しです。
まとめ
- 診療側は「大幅プラス改定」を、支払側は「メリハリある配分」を主張し、大きな隔たりがある。
- 政府は、医療機関の下支えと保険財政の維持の両立を図るため、一定のプラスは見込むが、財源の重点化を進める可能性が高い。
- 賃上げ支援と診療報酬改定をどう連続させるかが最大の焦点。
- DXや働き方改革の費用負担、薬価・材料の適正化も引き続き重要テーマ。
2026年度改定は、医療機関の経営の方向性を左右する極めて重要な改定となるため、今後の議論の進展を注視していく必要があります。



