国家公務員の兼業規制が、2026年4月から緩和されることが明らかになりました。人事院は、個人の趣味や特技を生かした自営業について、一定の条件を満たす場合に限り副業として認める方針を示しました。これまで国家公務員の副業は、不動産賃貸や家業承継などに限られており、今回の見直しは制度上の大きな転換点となります。この方針を示したのは 人事院 です。人事院は、人材確保や離職防止を目的に、民間企業で副業を認めたことが採用や定着に好影響を与えた事例を踏まえたとしています。実際、国家公務員を対象としたアンケートでも、趣味や社会貢献につながる分野での兼業に関心を示す回答が一定数ありました。
想定される副業と慎重な承認プロセス
今回想定されているのは、手芸品の販売やスポーツ・芸術分野の教室運営、地域イベントの企画、高齢者の買い物代行など、比較的小規模で社会性のある自営業です。希望者には開業届の提出と事業計画の作成を求め、その内容を各府省庁が個別に審査し、承認する仕組みとされています。制度上、繰り返し強調されているのは、「通常の職務に支障が生じないこと」と「公務員としての信用を損なわないこと」です。これは単なる形式的な条件ではありません。国家公務員は職務を通じて多くの非公開情報や個人情報に接しており、副業によって外部との接点が増えれば、守秘義務違反や利害衝突のリスクが高まります。今回の兼業緩和が一律解禁ではなく、事業内容を事前に精査する仕組みになっているのは、この点を最重要視しているためです。
「自営業型」に限定された理由と労基法上の整理
今回の制度が雇用型の副業ではなく、自営業型を中心としている点も注目されます。ここで誤解されやすいのは、「自営業なら働く時間の問題がなくなる」という理解ですが、これは正確ではありません。自営業であっても、人が実際に時間と労力を使って働いている事実は変わりません。ただし、労働基準法上の整理は異なります。労基法における労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。そのため、国家公務員としての勤務時間とは別に行う個人事業としての活動は、労基法上の「労働時間」には該当しません。雇用型の副業で問題となりやすい労働時間の通算や割増賃金といった論点を避けやすい点が、自営業型に限定されている大きな理由です。もっとも、労基法上の労働時間に当たらないからといって、働く時間そのものが消えるわけではありません。長時間に及べば疲労は蓄積し、結果として公務の遂行に影響が出る可能性があります。そのため、人事院が「職務に支障が生じないこと」を条件としているのは、法技術的な整理とは別に、実態としての働き過ぎや健康への影響を排除する狙いがあるといえます。
働き方改革と2026年労基法改正論議との関係
副業・兼業の容認は、政府が進めてきた働き方改革の流れと整合的に見えます。しかし今回の制度は、現行の法制度の枠内で可能なところまでにとどまっているのも事実です。雇用型の副業を広く認めれば、労働時間管理や割増賃金、健康配慮義務といった問題が一気に表面化します。現在進んでいる2026年以降の労働基準法改正をめぐる議論でも、副業・兼業を前提とした労働時間制度の在り方は重要な論点です。国家公務員の今回の兼業緩和は、その議論を先取りするものではありませんが、「現行制度ではここまでが限界」という現実を分かりやすく示しています。
社労士の視点で見る今回のニュース
社会保険労務士の立場から見ると、今回のニュースは「公務員も副業できるようになった」という単純な話ではありません。自営業であっても働く時間は確実に存在し、その影響をどう管理するのかという問題は残ります。加えて、公務員の場合は、民間以上に守秘義務と信用維持が重く問われます。国家公務員の副業解禁は、働き方改革の一環でありながら、その限界も同時に映し出しました。副業を認めつつ、公務の信頼性をどう守るのか。労働時間や健康の問題をどう位置づけるのか。今回の制度は、その難しさを前提にした、極めて慎重な一歩だといえるでしょう。



