
「効率的にやるために、適度にサボることは大事ですよ」
近年、若手社員や一部の管理職から、このような言葉を耳にする機会が増えております。成果を出している人ほど忙しそうに見えず、残業も少なく、雑談している時間すらある。こうした現象が現実にある以上、「サボる=悪」と感情的に否定するだけでは、現場での議論が噛み合わなくなる場面があることも事実です。しかしながら、社会保険労務士の立場から申し上げますと、「サボる」という言葉を肯定的に用いることには、明確な違和感を覚えます。問題は休憩や余白の有無ではありません。「サボる」という言葉が、責任や義務の扱いを曖昧にしてしまう点にこそ、本質的なリスクがあります。
「サボる」という言葉が含む、労務管理上のリスク
「サボる」とは、本来、やるべき業務を意図的に怠ること、義務や役割を果たさないことを指す言葉です。仕事は労働契約に基づいて行われており、労働者には、職務を誠実に遂行し、その進捗や結果について説明する義務があります。これは価値観や精神論の問題ではなく、業務が成立するための前提条件です。この前提に照らしますと、「適度にサボる」という表現がどれほど危ういかは明らかです。言い換えれば、「適度に義務を果たさない」「適度に説明責任を放棄する」と受け取られかねません。言葉のレベルでこのような緩みを許してしまうと、現場の運用も必ず緩みます。報告が減り、確認が省略され、「まあ問題ないだろう」という判断が積み重なっていきます。そして、いざトラブルが発生した際には、責任の所在をめぐって必ず混乱が生じます。
社会保険労務士として多くの現場を拝見してきましたが、労務トラブルが頻発する職場には共通点がございます。それは、「何が許され、何が許されないのか」が明確に言語化されていないという点です。「サボる」という言葉を肯定的に用いる職場ほど、この線引きが曖昧になりがちです。
成果を出す人が「サボって見える」本当の理由
一方で、「サボっているように見えるにもかかわらず、成果を出している人」が存在するのも事実です。この点を無視してしまうと、議論は空回りしてしまいます。ただし、その実態は決してサボりではありません。そうした方々が行っているのは、責任を放棄することではなく、責任を果たすための方法を徹底的に見直すことです。全体像から逆算して段取りを組み、時間のかかる作業を先に仕込み、繰り返し作業を自動化し、無駄な手数を削減する。その結果として手が空き、余白が生まれるため、「ラクそう」「暇そう」に見えるだけなのです。一時間かかっていた作業を仕組みによって一分で終わらせる、起動に時間のかかるパソコンを見直す、毎日行っていた作業を運用改善によって二日に一回にする。これらはいずれもサボりではありません。業務改善であり、効率化であり、再現性のある成果の出し方です。ここを「上手にサボっている」と表現してしまうと、本質を見誤ります。実際にはサボっているのではなく、ラクに成果が出る状態を構築しているに過ぎません。
効率化とサボりを分ける決定的な線引き
では、どこで線を引くべきでしょうか。社会保険労務士としての答えは明確です。成果の正確性が担保されているか、そして説明義務が果たされているか、この一点に尽きます。自動化やツールを活用していたとしても、内容を確認し、正確性を担保し、必要な報告を行っているのであれば、それは正当な効率化です。一方で、面倒だから確認せずに提出する、AIに任せた成果物を確認していない、進捗を報告せずに業務を切り上げる。これらは効率化ではありません。責任と説明義務を放棄した、サボりに該当する行為です。この線引きを曖昧にすると、職場の評価軸は確実に崩れます。確認や報告を丁寧に行う人ほど損をし、安易に省略した人が得をする構造が生まれます。その結果、真面目な人から順に疲弊し、現場には都合のよい省略だけが残ります。これは時間の問題で、必ずトラブルにつながります。したがって、管理職が行うべきことは、精神論で叱責することでも、「適度にサボってよい」と迎合することでもありません。言葉を正し、基準を明確に示すことです。工夫によって成果を出した部下には、「それはサボりではなく、業務を改善して効率化した結果です」と言い換えて評価する。一方で、報告や確認を怠っている場合には、「それはタイムパフォーマンスではなく、義務を果たしていない状態です」と明確に指摘する。この言語化を管理職が避けてはなりません。
結論は明確です。効率化は歓迎すべきであり、ラクをする工夫は推奨されるべきです。しかし、サボりは一切擁護できません。責任と説明義務を前提にした効率化のみが、組織を強くします。「サボる」という言葉でそれをごまかすことは、労務管理上、百害あって一利なしであると申し上げます。
業務効率化の相談は仙台・東京虎ノ門の社労士 社会保険労務士法人ブレインズまでご相談ください。



