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「内定辞退に違約金」は通用するのか オワハラが採用と定着を壊す理由

【就活の闇】「億単位の違約金」ちらつかせ内定辞退を阻止…就職エージェントによる「オワハラ問題」、就活生からは「エージェントは胡散臭い」の声も(集英社オンライン) – Yahoo!ニュース

中央大学が2026年3月17日に、就職エージェントによる内定承諾の強要や不当な金銭請求について学生向けの注意喚起を公表しました。そこでは、「辞退したら採用コストや研修費を請求する」といった脅しや、「今この場で他社選考を辞退しろ」と迫るような行為が実際に報告されています。大学側は、こうした金銭請求には法的根拠が乏しく、不当な圧力に屈しないよう明確に呼びかけています。社労士の立場から思うにこの問題は単なる就活マナーの話ではありません。採用の入口で無理に囲い込みを行う企業やエージェントほど、入社後の定着でつまずきます。内定承諾を「勝ち」と考えて圧力をかければ、一時的に承諾率は上がるかもしれませんが、その承諾は納得の結果ではなく、不安と恐怖の結果です。そんな状態で入社した人材が、会社に信頼を持ち長く働きたいと思うはずがありません。

オワハラは「強引な採用」ではなく、職業選択の自由を侵す問題です

厚生労働省の指針では、採用内定や採用内々定と引き換えに他社への就職活動を取りやめるよう強要することや、本人の意思に反して就職活動の終了を迫ることは、青少年の職業選択の自由を妨げる行為として行わないよう明記されています。さらに、採用内定者に対して自由な意思決定を妨げるような内定辞退の勧奨は、違法な権利侵害に当たるおそれがあるとも示されています。これは企業だけではなく、職業紹介事業者等も対象です。職業紹介事業の運営に関する厚生労働省資料でも、職業紹介事業者は求職者の意思を尊重することが必要であり、意思に反して特定の職業を強制するような接し方をしてはならないとされています。つまり、就職エージェントは学生を決め切るために追い込んでよい立場ではなく、本来は本人の意思決定を支えるべき存在です。しかも政府は、2026年度卒業・修了予定者等に関する要請の中で、オワハラ防止の徹底を改めて求めています。そこでは、内定辞退を防ぐ目的で保護者の同意を強要することまで、オワハラの類型として追加されています。オワハラは昔からある曖昧な悪習ではなく、現在進行形で対策強化の対象になっている問題です。

「違約金を払え」は採用実務としても法的にも極めて危うい発想です

今回の報道で特に異様なのは、内定辞退に対して「億単位の違約金」をちらつかせるような話です。中央大学の注意喚起でも、採用活動にかかった広告費や人事工数を学生へ請求することは法的に認められないと明示され、事前研修費などについても、労働を強制するための賠償予定は労働基準法16条等に抵触する可能性が極めて高いと示されています。労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりすることを禁止しています。厚生労働省も、「途中でやめたら違約金を払え」といった定めはできないと明確に説明しています。もちろん、現実に発生した個別具体的な損害の問題と、あらかじめ脅しのように金額を定めて拘束する話は別ですが、少なくとも通常の採用活動コストを理由に学生へ一律請求するような発想は、極めて危ういと言わざるを得ません。この手の圧力は、法的に危ないだけではありません。採用ブランドを傷つけます。今の学生は、違和感があれば大学キャリアセンター、SNS、口コミサイト、先輩ネットワークを通じて情報を共有します。大学側も「大学が把握している」となれば動きます。短期的に一人を囲い込めても、中長期では母集団形成そのものを壊します。中央大学が異例の注意喚起を出したこと自体、大学現場で看過できないレベルまで問題化している証拠です。

採用で押し込んだ人は、定着で必ずひずみが出ます

社労士として思うのは「採用と定着は切り離せない」ということです。採用段階で無理に承諾させた人は、入社後に「選ばされた」という感覚を持ちやすくなります。すると、配属、評価、労働条件、上司との相性など、入社後の小さな違和感が一気に不信感へ変わります。会社に対する初期信頼が低いため、少しの行き違いでも「やはりこの会社は違った」となりやすいのです。反対に、丁寧な説明を受け、自分で比較し、納得して入社を決めた人は、入社後に多少のギャップがあっても踏みとどまりやすい。なぜなら、自分で選んだという感覚があるからです。定着とは、制度だけで決まるものではありません。入社前の意思決定の質が、定着率を大きく左右します。採用担当者の中には、人手不足が厳しいから多少強く押さないと採れない、と考える人もいます。しかし、そこで焦ってオワハラに近づいた瞬間、その採用はもう失敗の始まりです。採用とは、席を埋めることではありません。自社を理解した人に選ばれることです。選ばせるのではなく、選ばれる。この発想に戻らない限り、採用数は追えても定着は改善しないように思います。内閣府調査でも、内々定を1社以上得た学生のうち、企業からオワハラを受けた経験が「ある」と答えた割合は約1割でした。少数ではありますが無視できる水準ではありません。しかも中身を見ると、「内々定を出す代わりに他社への就職活動をやめるよう強要された」といった、まさに職業選択の自由を揺るがす行為が中心です。採用難の時代だからこそ、企業がやるべきことは圧力ではなく「情報開示と対話」ではないでしょうか。仕事内容、処遇、育成方針、評価の考え方、入社後のキャリア、現実の忙しさまで、誠実に伝えることです。そして、学生が他社と比較する時間を奪わないことです。比較されてなお選ばれる会社こそ、定着する会社です。オワハラは、学生を傷つけるだけではありません。企業自身の採用力と定着力を同時に壊します。内定承諾率を上げるための圧力は、結局、早期離職率と採用コストの再発生という形で跳ね返ってきます。採用に悩む企業ほど、この問題を「自社の採用と定着を壊す経営リスク」として捉えるべきではないでしょうか。そうでなければ人はますます採れず、そしてせっかく採っても残らないというスパイラルに陥ると思います。

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